円建てステーブルコインの実証実験開始 ― 法人決済・会計処理はどう変わるか

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三菱UFJ銀行・三井住友銀行・みずほ銀行の3メガバンクが、円建てステーブルコインの共同発行に向けた実証実験を開始しました。
これまでドル建てが中心だったステーブルコイン市場に、日本発の円建てデジタル通貨が本格参入することで、法人決済の効率化や会計実務への影響が広がりそうです。
税理士・FPとしては、企業会計・信託会計・資金決済法対応を踏まえた実務整理が求められます。


ステーブルコインとは ― 信託を基盤とした「デジタル円」

ステーブルコインは、法定通貨や国債などの資産を裏付けに発行され、価値が一定に保たれるよう設計されたデジタル決済手段です。
今回の実証では、3メガが共同で円建てのステーブルコインを発行し、三菱UFJ信託銀行が預かった円資金を信託財産として管理します。技術基盤はフィンテック企業プログマのシステムを活用します。

この仕組みにより、発行残高と同額の資産が信託勘定に保持され、裏付けの確実性が担保されます。資金決済法上も、発行体には「1対1の償還義務」が課せられ、信託財産を通じた保全が義務化されています。


法人決済への実務的インパクト

実験では、三菱商事が国内外拠点間の送金にステーブルコインを利用します。従来の国際送金に比べ、為替手数料・着金確認コストを削減でき、キャッシュマネジメント効率が大きく向上します。

税理士・経理担当者にとってのポイントは以下の3点です。

  1. 仕訳処理の考え方
     ステーブルコインは「電子的支払手段」に該当し、現金預金と同様の流動資産として処理可能です。購入時は「仮想通貨」ではなく「預け金」または「電子金銭債権」的性質に分類されます。
  2. 送金・決済時の会計処理
     取引先への支払い時は、通常の振込処理と同様に「仕入債務/ステーブルコイン預け金」と仕訳可能です。送金手数料が不要な場合、雑費計上が減り、実効的なコスト削減が期待されます。
  3. 為替リスクの排除
     円建てのため、為替差損益は発生しません。海外取引でも円のまま決済できるため、為替予約や評価替え処理が不要となります。

信託会計・資金決済法との関係

信託銀行が資金を分別管理することで、万一の発行体破綻時にも利用者資産は保全されます。会計上は、信託財産の管理報酬が信託銀行の収益源となり、発行銀行側は運用益を通じて利回りを確保します。

資金決済法上は、次の2点が実務上の確認ポイントとなります。

  • 発行上限と法人決済
     フィンテック企業JPYCのような発行体では1回100万円の上限がありますが、信託型の3メガ方式では高額取引にも対応可能です。法人間決済や給与支払いなど、実務での活用範囲が広がります。
  • AML/KYC対応
     金融庁はマネーロンダリング(資金洗浄)対策として本人確認プロセスを厳格化する方針であり、利用企業は社内規程や内部統制を再点検する必要があります。

銀行・企業の収益構造の変化

ステーブルコインの普及は、銀行の「決済手数料収入」を減らす可能性があります。一方で、信託財産を国債などで運用することで運用益を確保し、収益を補うモデルへの転換が進むとみられます。

ただし、米国のように高金利で運用益を得やすい環境ではなく、日本では0.5%程度の金利水準しかありません。3メガが共同発行を選んだ背景には、こうした利回り格差の中でのリスク分散があります。

企業側も、送金や決済の効率化によるコスト削減を見込む一方、電子決済残高の管理・棚卸・監査手続の明確化といった会計実務対応が欠かせません。


税務・FP実務への展開

税務面では、ステーブルコインの利用による課税関係は基本的に「通貨取引」と同等に扱われ、売買益課税は生じません。ただし、外国通貨換算や仮想通貨取引とは異なる整理が必要です。
FP業務においては、個人や中小企業の資金管理・海外送金に円建てステーブルコインが普及すれば、為替コストを抑えた資産移動が容易になります。国際分散投資や留学資金送金など、円のまま送れる利点は大きいでしょう。


結論

円建てステーブルコインは、法人決済の効率化とともに、会計・税務・信託の実務にも新たな枠組みをもたらします。
税理士やFPは、資金決済法や信託会計の基礎理解を踏まえ、電子決済手段の法的位置づけや仕訳ルールを早期に整理しておくことが重要です。
「デジタル円」が実用化すれば、企業会計・国際送金・資産運用の境界が一段と曖昧になります。変化の早い金融制度の中で、信頼できる実務対応を示せる専門家の役割がますます問われる時代になってきました。


出典
・「円建てステーブルコイン実用段階、ドル建て1強に風穴」日本経済新聞(2025年11月8日)
・「デジタル時代の円離れ防ぐ 金融庁、普及後押し」日本経済新聞(2025年11月8日)
・「ステーブルコイン 法定通貨と連動、価値安定」日本経済新聞(2025年11月8日)


という事で、今回は以上とさせていただきます。

次回以降も、よろしくお願いします。

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