ビットコインの急落とともに、暗号資産に積極投資する企業の株価が軒並み下落しています。かつて「ビットコイン保有=成長企業の象徴」とされた流れが反転し、投資家の目線が厳しくなっているのです。本稿では、日本のメタプラネットを中心に、ビットコイン投資企業が直面する構造的リスクと市場の冷静な評価を整理します。
1. 「mNAV」という新たな評価軸
ビットコインを大量保有する企業に対し、投資家が注目する指標が「mNAV(market value to net asset value)」です。これはPBR(株価純資産倍率)の「ビットコイン版」と呼ばれ、企業の時価総額が保有ビットコインの時価総額をどの程度上回るかを示すものです。
mNAVが1倍を下回る場合、その企業の市場評価が「保有ビットコインの価値よりも低い」ことを意味します。つまり、「会社としての付加価値が評価されていない」状態です。
2. メタプラネットの苦境
国内で最大のビットコイン保有企業であるメタプラネットは、かつて時価総額が1兆円に達し、mNAVは約8倍に膨らみました。しかし2024年夏以降、ビットコイン価格の下落と株式の希薄化懸念が重なり、株価はピーク比で8割近く下落。mNAVも一時0.88倍まで低下しました。
自社株買いによる株価維持策を打ち出しましたが、資金調達の難航によりビットコインの追加購入も滞っています。王生貴久CFOは「mNAVが1倍以上であることは非常に重要」と述べていますが、現実は厳しい局面にあります。
3. 「希薄化」と逆回転する好循環モデル
メタプラネットはこれまで新株発行を通じて資金を調達し、その資金でビットコインを購入するモデルを採用してきました。株価上昇期にはこのモデルが好循環を生み、投資家心理を押し上げました。
しかし、株価下落局面では逆のスパイラルが起きます。新株予約権の行使による希薄化が株価の下落圧力となり、資金調達が難しくなることで、追加のビットコイン購入余地も減少します。この連鎖が「mNAVショック」ともいえる市場の警戒感を呼びました。
4. 世界でも進む「1倍割れ」
米マイクロストラテジー(MicroStrategy)やノルウェーのK33リサーチの調査でも、同様の傾向が見られます。ビットコイン価格が下落すれば、保有企業のmNAVも急速に悪化します。2024年9月時点で、ビットコイン投資を行う上場企業の約4分の1がmNAV1倍割れとなりました。
つまり、「保有している暗号資産の価値を上回る事業価値をどう生み出すか」という問いが、グローバルに突きつけられているのです。
5. 本業なき「仮想通貨ファンド化」への懸念
リミックスポイントやANAPホールディングスなど、国内でも同様に株価が乱高下しました。背景にあるのは、仮想通貨保有を軸とした企業モデルの不安定さです。ビットコイン相場の影響を強く受け、本業による安定収益が乏しい企業は「ファンド的存在」としてしか評価されにくい構造に陥ります。
メタプラネットのゲロヴィッチ社長は「保有ビットコインを活用してデジタル銀行を買収する構想」を語ったこともありますが、現時点で明確な収益モデルは示されていません。
結論
ビットコイン投資は一時的な話題を集めるものの、企業価値を長期的に支えるのは依然として「本業の収益力」です。ビットコイン価格が上がれば株価も上がる、という単純な相関だけでは、投資家の信頼を維持することはできません。
今後の暗号資産関連企業に求められるのは、仮想通貨を資産の一部として戦略的に活用しつつ、事業としての持続的成長モデルを描けるかどうか。その転換点に、いま市場は冷静な視線を注いでいます。
出典
- 日本経済新聞「ビットコイン投資企業、誤算」(2025年11月7日)
- World Gold Council / K33 Research / ビットバンク各社レポートより再構成
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
