自民、立憲民主など与野党6党が、ガソリン税に上乗せされている旧暫定税率を2025年12月31日に廃止することで正式に合意しました。軽油引取税の旧暫定税率も2026年4月に廃止される予定です。15年前に廃止を決めながら継続してきた暫定税率がようやく幕を閉じますが、喜ぶだけでは済まされません。代替財源と脱炭素政策への影響をどう整合させるかが、これからの焦点です。
暫定税率の廃止は「正常化」だが
ガソリン税1リットルあたり53.8円のうち、25.1円を占める暫定税率部分は1974年、高度経済成長期の道路整備財源として導入されました。2010年に廃止を決めたものの、「当分の間税率」という名称に変えられ、事実上の恒久税として続いてきました。
こうした経緯を踏まえれば、税体系を本来の姿に戻す「正常化」としての廃止は理解できます。累計8兆円超が投じられたガソリン補助金の停止も、価格メカニズムのゆがみを是正する観点から妥当です。
ただし、問題はここからです。暫定税率をなくせば国・地方あわせて年間約1.5兆円の税収が失われます。政府与党が主張する「責任ある積極財政」の理念を守るためにも、代替財源の設計は避けて通れません。
財源議論の先送りは許されない
今回の6党合意では、企業向けの租税特別措置の見直しや、高所得層への課税強化といった「例示」が挙げられたにすぎません。一方で、自動車関連税制の再構築といった現実的な財源案は含まれていません。
このままでは、単なる「減税競争」に終わり、将来の財政運営にしわ寄せが及ぶ可能性があります。特に、インフラの維持補修費が増大するなかで、道路利用者が相応の負担をするという受益者負担の原則が崩れかねません。
また、「税収の上振れ分で賄える」とする野党の説明も、持続的な制度運営の観点からは脆弱です。一次的な財源に頼るのではなく、構造的に安定した財政基盤をどう確立するかが問われています。
脱炭素政策への影響も深刻
国立環境研究所の試算によると、暫定税率廃止により2030年時点で二酸化炭素排出量が年間610万トン増える見通しです。これはエネルギー起源排出量全体の約1%に相当します。
政府が掲げるカーボンニュートラル方針と逆行する動きであり、国際社会から「日本は温暖化対策に後ろ向き」と見られる懸念もあります。もし税収を減らすなら、同時に脱炭素を促す税制――たとえば環境目的税や電動車普及を後押しする優遇制度――の強化を並行して進めるべきです。
結論
ガソリン減税の合意は、政治的には「生活支援」として理解されやすいものの、財源と環境の両立という観点では課題を残しています。
「責任ある積極財政」を掲げる高市政権にとって必要なのは、減税を決める勇気ではなく、減税後の持続可能な制度を設計する責任です。財政健全化と脱炭素を両立させる政策パッケージを、早急に示すべき時期に来ています。
出典
日本経済新聞「ガソリン減税は財源と脱炭素の対策示せ」(2025年11月7日)
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
