補助金・助成金の税務調査対応 ― 調査官が見るポイントと指摘回避の実務

会計
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補助金や助成金の受給は、企業の経営を支える重要な制度です。
しかし、会計処理や書類管理に不備があると、税務調査で思わぬ指摘を受けることがあります。
特に近年は、補助金不正受給や基金管理の杜撰さが社会問題化し、国税局・税務署が補助金会計を重点確認項目に位置づける傾向が強まっています。
本稿では、税理士・FPが顧問先の調査対応を支援する際に押さえるべき実務ポイントを整理します。

1. 調査官が注目する「3つの確認ポイント」

補助金・助成金の調査では、国税当局が特に注目する項目が3つあります。

  1. 収益認識の時期(益金算入時期)
     交付決定時か、実績報告時かで課税時期が異なります。
     法人税基本通達2-1-42では「交付決定により支給額が確定した時」に収益計上することが原則ですが、条件付き交付の場合は報告承認日が基準になるケースもあります。
  2. 補助金の使途と支出内容の整合性
     交付要綱に定める目的外に使用した経費(例えば備品費→広告費転用)は、支出不適格とされ、補助金収入の否認につながるおそれがあります。
  3. 返納・返還処理の適正性
     返還が発生しているにもかかわらず、経理上「雑損失」処理や「仮払金残留」として放置していると、調査で修正申告を求められることがあります。

税務調査ではこれらの「収益認識・支出適正・返納処理」の3点セットが重点的に確認されます。


2. 補助金ごとの典型的な指摘事例

補助金の種類ごとに、税務調査での典型的な指摘パターンをまとめると次の通りです。

補助金・助成金の種類よくある指摘内容対応のポイント
事業再構築補助金補助対象外経費を計上、工期遅延のまま収益認識交付要綱・変更承認書を都度確認
IT導入補助金ソフトウェア資産計上漏れ、償却期間誤り「資産計上 or 経費処理」判断を明文化
雇用調整助成金未収処理のまま放置、返納時期のズレ雇用関連は支給決定通知日基準で処理
ものづくり補助金補助金収入を翌期に計上、圧縮記帳漏れ設備資産取得日の確認と仕訳の整合
地方自治体助成金補助金と寄付金を混同、区分経理不十分交付目的別に補助金台帳を分離

これらはいずれも「書類の裏づけが弱い」「説明が曖昧」といったケースに集中しています。


3. 実務対応の流れ ― 税務調査を想定した準備手順

税務調査を見据えた補助金会計の整理は、次の5段階で行うのが効果的です。

  1. 補助金管理台帳の作成
     交付決定日・金額・収益認識日・返納有無を一元管理。
  2. 証憑書類の整備
     交付決定書・支出明細・請求書・領収書・契約書をセットで保管。
  3. 会計仕訳の整合性確認
     交付金収入、圧縮記帳、返納仕訳を確認。
  4. 報告書と会計数値の突合
     行政報告書と決算書の金額を照合して差異説明資料を準備。
  5. 質問想定リストの作成
     調査官からの質問に備え、「支給根拠」「支出証拠」「返納理由」を事前に想定。

これらを整理しておくことで、調査当日も落ち着いて対応できます。


4. 税理士・FPがサポートできるポイント

税務調査の現場では、税理士・FPの関与が「防波堤」となります。
特に次の3つの支援は顧問先に大きな安心感を与えます。

  • (1) 事前レビュー支援:補助金台帳・証憑ファイルの事前点検
  • (2) 同席・立会支援:調査官への説明補助、質問事項の整理
  • (3) 是正・修正支援:返納・修正申告の計算と会計仕訳調整

また、近年は国税庁が「補助金不正・不適正経理」への情報連携を強化しており、行政検査や地方自治体監査の情報が税務調査にも活用されています。
税理士・FPとしては、補助金の「経理処理+証拠管理」の両面から防御線を構築する姿勢が不可欠です。


5. 指摘を受けた後の対応と再発防止

万一、補助金関連で指摘を受けた場合は、迅速な原因分析と改善策の提示が重要です。
次の手順を踏むと効果的です。

  1. 調査官の指摘内容を文書で確認(口頭説明のみで終わらせない)
  2. 再発防止策を報告書形式でまとめる(内部統制・教育含む)
  3. 会計処理・返納仕訳を修正し、決算への影響を反映

再発防止の観点では、補助金関連の支出を「別勘定」または「部門コード管理」する方法が推奨されます。
こうすることで、税務調査時の資料提示が容易になり、説明の透明性が高まります。


結論

補助金・助成金の税務調査は、単に収益認識の問題ではなく、会計・証拠・内部統制の総合力が問われる分野です。
税理士・FPは、顧問先に対して「もらう」「使う」「報告する」「守る」の4段階を一貫して支援する体制を整えることが求められます。
補助金会計を通じて、行政・納税者・専門家の三者が信頼でつながる仕組みを築くことが、今後の実務の要になるでしょう。


出典
・国税庁「法人税基本通達」
・会計検査院「令和6年度決算検査報告」
・経済産業省「補助金等に係る経理処理要領」
・日本経済新聞(2025年11月6日朝刊)「税の無駄遣い540億円 昨年度、検査院報告」


という事で、今回は以上とさせていただきます。

次回以降も、よろしくお願いします。

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