2025年から2026年にかけての税制改正論議は、日本の社会構造そのものを変える節目に立っています。
高市政権が掲げる「責任ある積極財政」は、単なる増税・減税の枠を超え、税を通じた成長と再分配の再設計を目指しています。
本稿では、これまでの「税制改正ウォッチ」シリーズ(全8回)で扱った主要論点を振り返りながら、2026年度改正の焦点を整理します。
第1章 「1億円の壁」是正とミニマム課税の拡大
富裕層ほど所得税負担率が低くなる「1億円の壁」。
この逆転現象の是正を目的に、2025年度からミニマム課税制度が導入されました。
合計所得30億円超を対象に、通常課税を下回る場合には22.5%の最低税負担を求める仕組みです。
2026年度改正では、この対象を「20億円」または「10億円」へ引き下げる案が浮上。
富裕層への適正課税を強化しつつ、「貯蓄から投資へ」の流れを妨げないバランスが問われます。
ガソリン税の旧暫定税率廃止による減収(年1.5兆円)の一部財源としても位置づけられています。
第2章 企業向け政策減税の再点検
研究開発税制や賃上げ促進税制などの租税特別措置(租特)は、企業の投資を支える一方で、制度の乱立と恒久化が課題となっています。
財務省は「政策効果が不透明」として縮減を求め、経済産業省は「成長投資を阻害する」として反発。
2026年度は、効果検証を前提とする“成果重視型減税”への転換が焦点です。
成長投資や人材投資に重点を置きつつ、財源再構築を同時に進める動きが強まっています。
第3章 租特依存からの脱却と財源改革
「責任ある積極財政」を支えるには、歳出の裏付けとなる財源が必要です。
年間5兆円にのぼる租税特別措置による減収をどう是正するかが、財務省の最大の関心事です。
租特の整理・統廃合を進め、「目的達成後も残る優遇措置」を段階的に縮小する方針です。
また、法人税や消費税に偏った構造を改め、安定的で透明性の高い財源を確保することが求められています。
「成長を支える財政」と「持続可能な税体系」の両立が、今後の税制設計の中核となります。
第4章 税収構造の転換点 ― 高齢化・資産・環境
少子高齢化と経済構造の変化は、税制にも再設計を迫っています。
特に注目されるのが、
- 高齢者への課税見直し(年金課税・医療費控除の縮小)、
- 資産課税の再構築(金融所得課税・相続贈与一体化)、
- 環境税の再評価(炭素税・循環課税)。
税の対象を「所得中心」から「資産・環境・行動」へと拡大する流れが強まっています。
これにより、所得格差や気候リスクなど、次世代に関わる課題に税制が直接対応する仕組みが整いつつあります。
第5章 地方税の再構築 ― ネット銀行と税収偏在
ネット銀行の台頭により、預貯金利子にかかる住民税収が東京都に集中しています。
地方自治体の実情と乖離したこの構造を是正するため、総務省は清算制度の導入を検討。
ネット銀行の利子税収を利用者の居住地に応じて再配分する仕組みです。
「地方税のデジタル対応」は、地方財源の持続性を保つための第一歩です。
同時に、都市と地方の税収バランスを再定義する新たな地方税体系の構築が求められています。
第6章 所得再分配の再設計 ― 三層構造への転換
格差是正のため、税と社会保障を連動させる三層型再分配構造が議論されています。
- 累進課税による所得再分配
- 社会保険料の上限見直しによる応能負担
- 給付付き税額控除(リファンダブル・タックスクレジット)
これにより、「所得の捕捉」「負担の公平」「支援の自動化」が同時に実現できる可能性があります。
再分配を「格差是正のため」から「機会創出のため」へと転換する構想が進行中です。
第7章 資産運用立国と税制の両立
政府はNISA・iDeCoの拡充を通じて、家計の資産を投資へと導く政策を加速しています。
一方で、金融所得課税の逆進性を是正する富裕層課税の見直しも並行して進みます。
今後の方向性は、「長期・積立・分散」を支援する税制優遇と、短期・投機取引への課税強化の組み合わせです。
税制を「投資を促す装置」として機能させながら、再分配の公正さを損なわない。
資産運用立国にふさわしい税のあり方が問われています。
第8章 2026年度改正の焦点 ― 公平・成長・持続
2026年度税制改正は、「公平性」「成長」「持続性」の三立をめざす政策の総仕上げです。
具体的な焦点は以下の通りです。
- 富裕層課税(ミニマム課税対象拡大)
- 租税特別措置の統廃合
- 環境税・炭素課税の再設計
- 地方税清算制度の導入
- 給付付き税額控除の制度化
積極財政と責任ある財源確保をどう両立させるか。
このバランスが、次世代の税制ビジョンを方向づける鍵となります。
結論
税制改正は、経済政策の裏方ではなく、社会を動かす「設計図」です。
所得・資産・環境・地域という異なる次元を一つのフレームで捉え直すことで、税は単なる負担ではなく、成長と連帯を支える仕組みへと進化します。
2026年度税制改正は、「公平・成長・持続」をどう調和させるかを問う試金石であり、
その方向性が、次の日本経済の形を決定づけることになるでしょう。
出典
出典:日本経済新聞(2025年10〜11月各紙面)、財務省・経産省・総務省「税制改正要望・基本方針(2025〜2026年度)」、厚生労働省「社会保障審議会」資料 ほか
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。

