税制改正ウォッチ⑧ 2026年度税制改正の焦点 ― 公平・成長・持続の三立をめざして

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2026年度の税制改正は、日本経済が直面する三つの課題――公平性の確保、成長の促進、そして財政の持続性――を同時に追求する重要な局面となります。
高市政権が掲げる「責任ある積極財政」のもとで、財務省・経済産業省・厚生労働省などがそれぞれの政策目的を抱えながら議論を進めています。
これまでのシリーズで見てきたように、税制改正はもはや一つの分野にとどまらず、社会全体の構造転換を支える総合政策になりつつあります。


公平性 ― 「1億円の壁」是正と再分配の強化

税制改正の第一の柱は「公平性の確保」です。
2025年度に導入されたミニマム課税は、富裕層に対する最低限の税負担を求める仕組みとして注目されています。
2026年度改正では、この適用範囲を「30億円超」から「20億円」「10億円」水準へと引き下げ、より広い高所得層を対象にする案が有力です。

また、所得税・社会保険料・給付付き税額控除を一体的に再設計する「再分配三層構造」も検討されています。
中間層の税負担を緩和しつつ、低所得層への給付と高所得層への応能負担を強化する。
この「税と給付の統合設計」が、今後の税制議論の基盤になるとみられます。


成長 ― 租税特別措置から成果重視型へ

第二の柱は「成長のための税制」です。
研究開発税制や賃上げ促進税制といった租税特別措置(租特)は、これまで企業投資を支える中心的役割を果たしてきましたが、対象が広がりすぎた結果、政策効果が不明確になっているとの批判があります。

2026年度改正では、「成長投資」「グリーン投資」「人材投資」といった分野ごとに成果指標を設け、効果検証を前提とした「成果重視型減税」への転換が焦点となります。
また、NISAやiDeCoを通じた家計の投資支援も継続され、資産運用立国戦略の税制的基盤をさらに強化する方向が示されています。


持続性 ― 財源再構築と地方税の再編

第三の柱は「財政の持続性」です。
ガソリン税の旧暫定税率廃止による年1.5兆円規模の減収をはじめ、社会保障費の増大が財政を圧迫しています。
そのため、財務省は「租特依存」から脱却し、安定財源を確保するための包括的改革を進めようとしています。

注目されるのは、地方税の清算制度導入です。
ネット銀行の利子税収が東京に集中する問題を是正するため、預金者の居住地に応じて再配分する仕組みが検討されています。
また、環境税や炭素課税の再構築によって、脱炭素投資を促す新たな財源づくりも視野に入っています。


「積極財政」と「責任ある財源」の両立

積極財政の推進は、景気回復と賃上げを下支えする一方で、財源をどう確保するかという構造的課題を伴います。
財務省は「持続可能な財政」の実現を掲げ、歳出の効率化と税制の総点検を進めています。
一方、高市政権は「成長による税収増」を重視し、歳出削減一辺倒ではないアプローチを志向しています。

この二つの立場を調和させる鍵となるのが、「成長を阻害しない再分配」と「財源を確保する積極財政」という新しい財政哲学です。
税制改正はまさにこの哲学を実践に移すための政策装置といえるでしょう。


結論

2026年度税制改正の焦点は、「公平・成長・持続」の三立をどう実現するかにあります。
税制はもはや単なる財源調達の手段ではなく、社会の方向性を形づくる政策の中核です。
所得・資産・環境・地方――あらゆる領域をまたぐ税体系の再設計が進む中で、国民に問われるのは「どのような社会を支えるために、どのように負担を分かち合うか」という根本的な問いです。
2026年度改正は、その問いに対する日本の答えを示す試金石となるでしょう。


出典

出典:日本経済新聞(2025年10月~11月各紙面)、財務省・経産省「税制改正要望・基本方針(2026年度)」、総務省「地方税制の再構築に関する検討会」資料より


という事で、今回は以上とさせていただきます。

次回以降も、よろしくお願いします。

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