「貯蓄から投資へ」。
日本政府が掲げる資産運用立国戦略が本格化しています。
高市政権は、成長資金の循環を促すためにNISA・iDeCo制度の拡充を維持する一方で、富裕層課税の見直しを通じて税の公平性を確保する方向性を打ち出しました。
本稿では、投資促進と再分配の両立という政策的テーマを軸に、税制改正の行方を整理します。
資産運用立国の政策目的
資産運用立国とは、家計の金融資産を「眠らせず、動かす」ことを目的とする長期戦略です。
日本の家計金融資産は約2,200兆円に達し、そのうち過半を現預金が占めています。
政府はこの構造を変えるため、2024年から新NISA(少額投資非課税制度)を恒久化し、非課税投資枠を大幅に拡大しました。
また、企業年金・確定拠出年金(iDeCo)の制度改正を通じて、就労期から老後にかけた「長期・積立・分散投資」を支援する仕組みを整えています。
こうした施策は、企業の成長資金供給や家計の資産形成を促すとともに、「金融立国」としての日本経済の競争力強化を目指すものです。
NISAとiDeCoの拡充・課題
新NISAは、つみたて投資枠と成長投資枠を一本化し、年間投資上限を360万円、非課税保有期間を無期限としました。
これにより、若年層から高齢層まで幅広く投資を継続できる環境が整いました。
一方で、制度の恩恵は金融リテラシーの高い層に偏りやすく、低所得者層や非正規労働者では投資余力が限られる点が課題です。
また、iDeCo(個人型確定拠出年金)についても、加入年齢の引き上げや受取期間の柔軟化など制度改正が進んでいます。
ただし、拠出上限額や所得控除の扱いなど、税制上の公平性をどう確保するかは引き続きの論点です。
「投資できる人」と「投資できない人」の格差をいかに是正するかが、次の段階の課題になります。
富裕層課税とのバランス
一方で、富裕層課税の見直しも進んでいます。
金融所得課税は一律15%(所得税)+5%(住民税)の分離課税となっており、所得が上がるほど負担率が低下する「1億円の壁」現象を招いています。
このため、財務省はミニマム課税の対象拡大や、特定高額所得者への追加課税を検討中です。
ただし、過度な課税強化は投資マネーの流出を招くおそれがあり、「投資意欲を冷やさず、再分配を強化する」という微妙なバランスが求められています。
高市政権はこの課題に対し、富裕層課税とNISA・iDeCoの拡充を同時に進める「二面戦略」を取っています。
税制の再構築 ― 「運用益課税」の未来
将来的には、金融所得課税の体系そのものが見直される可能性があります。
現行の分離課税方式を維持しつつ、長期・積立型投資に対しては優遇を拡大し、短期・投機的取引に対しては課税強化を行う――いわば「行動誘導型課税」への転換です。
この考え方は、税制を投資促進だけでなく、持続的な資産形成行動を支えるインセンティブ設計とするものです。
さらに、相続税や贈与税との一体化も視野に入ります。
資産移転時に課税されるだけでなく、「資産をどう活用するか」にも税が連動する時代が来ると考えられます。
結論
資産運用立国の実現は、単に投資を奨励するだけでは達成できません。
「投資する力」「支える制度」「公正な税負担」という三要素が揃って初めて、社会全体の資産形成が進みます。
NISAやiDeCoの恩恵を社会全体に広げつつ、富裕層課税を通じて公平性を確保すること――それが、これからの税制改正の最大の課題です。
税は“抑制”ではなく“循環”を生み出す装置へ。資産運用立国の未来は、まさに税制の再構築の上に成り立っています。
出典
出典:日本経済新聞(2025年11月各紙面)、金融庁「資産運用立国実現会議」資料、財務省「税制改正に関する基本的考え方(2025年度)」
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
