インターネット銀行の普及により、預貯金利子にかかる住民税収が東京都に集中するという新たな課題が生じています。
税のデジタル化が進む一方で、地方自治体間の「税収のゆがみ」は深刻化し、地域間格差の是正が求められています。
財務省と総務省は、税収の偏在を是正するための「清算制度」導入を検討しており、地方税のあり方そのものが転換点を迎えています。
ネット銀行がもたらす税収の偏り
現在、利子所得にかかる住民税は、預金を管理する金融機関の所在地を基準に課税されます。
ネット銀行の多くが本社を東京都に置いているため、全国各地の利用者が預金していても、税収は東京都に集中します。
総務省の試算によれば、都内への集中分は年間数百億円規模に上るとされ、地方との格差拡大が問題視されています。
こうした状況は、インターネットバンキングやデジタル証券などの拡大により今後さらに進行する見通しです。
地域に資金が流れても税収が東京に集中する――この「構造的ゆがみ」は、地方財政の持続可能性に大きな影響を与えかねません。
清算制度の導入構想
総務省の検討会では、税収を「実際の預金者の居住地」に応じて再配分する「清算制度」の導入が議論されています。
これは、ネット銀行などで発生した利子税収を、利用者の居住都道府県へ按分して再分配する仕組みです。
制度の枠組みは、すでに法人事業税の一部で導入されている「外形標準課税方式」に近い考え方です。
ただし、実務上は課題も多くあります。
預金者情報の管理やプライバシー保護、金融機関の事務負担、再配分の計算基準など、制度設計には細心の検討が必要です。
一方で、地方側からは「東京一極集中の是正につながる」として導入を求める声が強まっています。
地方税の再構築に向けた議論
この問題は、単なるネット銀行課税にとどまりません。
人口減少や企業移転によって地域の税収基盤が弱体化する中、地方税体系そのものの再構築が求められています。
財務省・総務省が今後検討する可能性があるのは、以下の3つの方向性です。
- 課税の所在地主義から居住地主義への転換
所得の帰属を実際の納税者ベースで捉え直す。 - 地方間の税収調整メカニズムの強化
清算制度を恒久化し、安定的な配分ルールを確立。 - デジタル経済に対応した地方課税権の明確化
ネット取引・デジタル資産など新しい所得源を地方税体系に組み込む。
これらは、地方財政の自立性を高めると同時に、中央と地方の「税源共有モデル」への一歩となります。
政策論としての意義
税収の偏在は、単に「公平性」の問題にとどまらず、地域経済の発展や公共サービスの持続性に直結します。
地方が安定した税収を確保できなければ、医療・教育・インフラといった住民サービスの維持が難しくなります。
一方で、東京都など都市部に集中する税収を単純に分配するだけでは、都市機能の維持に支障をきたす可能性もあります。
したがって、「清算制度」は単なる再配分ではなく、「全国で共有する公共財をどのように支えるか」という、より大きな国のかたちの議論につながっています。
結論
デジタル化がもたらす新しい税の偏在は、従来の地方税体系の限界を明らかにしています。
清算制度の導入は、税の公平性を取り戻す第一歩であり、地方分権の実質化にもつながります。
ネット銀行時代にふさわしい「税の帰属の再定義」が、これからの地方財政の鍵を握るでしょう。
出典
出典:日本経済新聞(2025年10月31日朝刊)「利子税収 東京に偏在 総務省、清算制度検討」
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
