税制改正ウォッチ② 企業向け政策減税の再点検 ― 研究開発税制と賃上げ促進税制の行方

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高市政権が進める「責任ある積極財政」のもと、財務省・経済産業省・与野党の間で注目されているのが、企業向け政策減税の見直しです。
長年にわたり成長支援や雇用確保を目的に設けられてきた研究開発税制や賃上げ促進税制ですが、適用範囲の広がりと税収減の大きさが問題視され、今後の改正論議の焦点となっています。


政策減税の現状と課題

企業向け政策減税とは、特定の経済活動を促すために税負担を軽減する仕組みの総称です。
研究開発税制、賃上げ促進税制、投資促進税制などが代表的で、政府の成長戦略と連動して拡充されてきました。

一方で、こうした租税特別措置(租特)は、企業規模を問わず幅広く利用されており、税収への影響が大きくなっています。
財務省によると、法人税の実効税率を約30%とした場合でも、各種の特例・控除を活用すれば実質負担率は20%台前半まで低下する企業も多く、税の公平性を損ねているとの指摘があります。
制度が恒常化している点も問題で、本来の政策目的が達成された後も見直しが遅れる傾向があります。


研究開発税制の見直し論点

研究開発税制は、企業が行う技術開発や製品改良にかかる費用を税額控除できる制度です。
控除率は最大25%程度に達し、特に大企業では利益水準の高い年度ほど恩恵が大きくなります。

しかし、控除の多くが一部の大企業に偏っているとの指摘があります。
経済産業省は「技術革新を支える基盤として不可欠」と主張する一方、財務省は「政策効果が薄れつつある」として対象の絞り込みを求めています。
今後は、中小企業の技術開発支援に重点を移す形で控除率を見直す可能性があります。


賃上げ促進税制の再設計

もう一つの焦点が賃上げ促進税制です。
企業が従業員の給与総額を一定割合以上増やした場合、その増加額の一部を税額控除できる仕組みで、政府の「賃上げの流れを定着させる」政策の中核を担ってきました。

ただし、適用条件が複雑で、実際に制度を活用できる企業は限定的です。
賃上げ率の判定基準や対象従業員の範囲など、会計上の処理も煩雑であり、「現場で運用しにくい制度」との声が強まっています。
また、賃上げをしても利益が出ない企業は控除を十分に活かせず、実効性に疑問が残ります。
そのため、2026年度以降は制度を一本化し、よりシンプルで持続可能な賃上げ支援策に改める案が検討されています。


「租特依存」からの脱却へ

こうした政策減税の拡大は、結果として「租特依存型」の財政構造を生んできました。
財務省は「政策目的が重複し、税制が複雑化している」として、縮減と透明化を提唱しています。
一方、経済産業省は「成長投資を抑制してはならない」と反発。
両省の間で、経済成長と財源確保のバランスをどう取るかが大きな論点となっています。

高市政権は「無駄を省き、責任ある積極財政を実現する」と明言しており、税制優遇措置の再構築は避けられない情勢です。


結論

研究開発税制や賃上げ促進税制は、これまで企業の投資と雇用を支える重要な役割を果たしてきました。
しかし、限られた財源のなかで、誰にどのように恩恵を与えるのかという「選択と集中」が問われる時代に入っています。
租税特別措置を通じた間接支援から、より直接的で効果の測定可能な政策手段へ。
税制改正の方向性は、いよいよ「成果重視」への転換点を迎えています。


出典

出典:日本経済新聞(2025年10月31日朝刊)「企業向け政策減税 見直し論議本格化」


という事で、今回は以上とさせていただきます。

次回以降も、よろしくお願いします。

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