日本の資本市場が、大きな転換点を迎えようとしています。三菱UFJ・三井住友・みずほの3メガバンクグループが出資するProgmat(プログマ)が、上場企業の株式をデジタル証券として24時間1円単位で取引できる仕組みの構築を正式に発表しました。ブロックチェーン技術を活用し、「眠らない株式市場」を実現する構想です。
この動きは、既存の証券取引所の枠組みを補完しつつ、日本の資本市場をより柔軟で民主的な方向へと導く可能性を秘めています。
■ 24時間取引の実現とブロックチェーンの活用
株式トークンの最大の特徴は、ブロックチェーン(分散型台帳)を基盤とする24時間取引の実現です。
従来の証券取引所では取引時間に制約があり、夜間や休日の取引は限られていました。しかし、ブロックチェーンを活用することで、特定の運営主体に依存しない「常時稼働型」の市場インフラが可能となります。
投資家にとっては、海外市場の動きや経済ニュースに即応できる「リアルタイム投資」の環境が整うことを意味します。これまで為替や仮想通貨が担ってきた24時間取引の流れが、株式にも広がる可能性があります。
■ 海外に遅れを取る日本市場の巻き返し
米国ではすでにロビンフッド社が欧州で株式トークンの提供を開始し、ナスダックも取引制度の改定に動いています。
これに対し、日本はこれまで規制や技術面のハードルにより出遅れてきました。Progmatの発表は、そうした状況を打破しようとする意欲的な試みです。
株式トークンの導入は、既存の証券取引制度を揺るがすものではなく、むしろその裾野を広げる「補完的インフラ」として期待されています。1円単位での取引が可能になれば、若年層や小口投資家の参入が容易になり、資本市場のすそ野拡大にもつながるでしょう。
■ 株主との新しい関係づくり
デジタル化のもう一つの利点が、株主情報の即時把握です。
従来、企業は証券会社からの株主名簿通知を年2回受け取るのみで、単元未満株(100株未満)保有者の詳細は把握しづらい状況にありました。
新システムでは、保有者情報をリアルタイムで取得できるため、個人株主ごとの保有数に応じた株主優待や特典の提供も可能となります。
これにより、企業は小口株主との関係をより密接に構築でき、安定株主の確保やブランド・エンゲージメントの向上にもつながると期待されます。
■ 残された課題 ― 技術・制度の整備
とはいえ、課題も少なくありません。株式トークンとして流通させるには企業側の同意が必要であり、売却益や配当には従来と同様に20%課税が課せられます。
また、証券会社側も24時間対応の体制整備が求められ、システム開発・顧客サポート・リスク管理などのコスト負担が生じます。
制度・技術の両面での整備が不可欠であり、業界横断的な協議会によるルール形成が今後の成否を左右します。
結論
Progmatが進める「株式トークン」は、日本資本市場のデジタル化を象徴する新たな一歩です。
ブロックチェーンを活用した24時間市場の実現は、投資家にとっては利便性の飛躍、企業にとっては株主との新たな接点の創出を意味します。
一方で、制度的・技術的課題は依然多く、証券会社・監督当局・企業がどこまで協働できるかが鍵を握ります。
「眠らない市場」は、単なる技術革新ではなく、日本経済の資本循環の仕組みそのものを問い直す挑戦でもあります。
出典
出典:2025年11月5日 日本経済新聞「『株式トークン』日本でも」
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。

