副業と越境取引の会計処理 ― クラウド会計・電子帳簿保存法対応編

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海外ECを通じて個人が輸入・販売を行う「副業型ビジネス」は、もはや珍しくありません。
しかし、会計・税務上の処理は想像以上に複雑です。輸入消費税や通関書類の取り扱い、プラットフォーム手数料の仕訳、そして電子帳簿保存法対応まで――。
本稿では、税理士・FPの立場から、越境取引を含む副業の会計処理とクラウド会計・電子保存対応の実務ポイントを解説します。


越境取引の特徴 ― 「データが国内にない取引」への備え

TemuやSHEINなどの海外ECを利用した副業では、取引情報が日本国内で発行された帳票として存在しないケースが多いのが特徴です。

  • 請求書・領収書は英語表記、海外通貨建て
  • 決済はクレジットカードやPayPal経由
  • 通関書類は税関や運送会社が電子発行

こうした「国境を越える取引」では、帳簿・証憑の保存を自動化しないと、確定申告時に必要な記録を整えるのが困難です。
クラウド会計ソフトと電子帳簿保存法の要件を正しく理解することが、今後の実務の要になります。


クラウド会計の活用 ― 取引証憑を“自動でつなぐ”仕組み

副業や小規模事業者が越境取引を処理するには、次のようなクラウド連携が有効です。

① クレジットカード・決済連携

カード明細を自動取得して仕訳を生成します。
海外取引の場合は為替レートが自動反映されるため、円換算額で帳簿に記録できます。
弥生会計オンラインやMoney Forwardでは、為替差損益も自動計算されます。

② 通関・輸入税連携

輸入許可通知書や納税申告書をPDFでアップロードし、仕入税額控除の根拠書類として添付保存します。
クラウド会計上では、「課税仕入/未払消費税」として自動仕訳を設定しておくと便利です。

③ ECプラットフォーム明細の取込み

AmazonやBASEなど国内プラットフォームと異なり、海外ECではAPI連携が限定的な場合があります。
そのため、売上データはCSV出力やスクリーンショットでの保存が中心となります。
この点を踏まえ、電子帳簿保存法の要件に沿った保管方法を確立することが重要です。


電子帳簿保存法対応 ― 「スクリーンショットでもOKだが要件あり」

2024年1月から、電子取引データの保存が完全義務化されました。
海外ECの領収書や決済明細も電子取引に該当するため、以下の3点を満たす必要があります。

  1. 真実性の確保
     改ざん防止措置(タイムスタンプ、訂正削除ログ、事務手続規程)が必要。
  2. 可視性の確保
     検索要件(取引年月日・金額・相手方)で容易に検索できる状態で保存。
  3. 保存期間の遵守
     原則7年間の保存義務。廃業後も期間中は保持が必要。

クラウド会計ソフトでは、電子取引の証憑をアップロードするだけで検索要件を自動付与する機能があります。
特に副業者の場合、取引データを「取引日順」に整理して一元管理することが、最も効率的なリスク回避策です。


実務での仕訳例 ― 副業型ECにおける基本パターン

取引内容借方貸方補足
海外サイトからの仕入仕入 100,000円普通預金 100,000円クレカ決済レート換算
通関時の輸入消費税納付仮払消費税等 10,000円現金 10,000円輸入許可通知書に基づく
フリマアプリでの販売売掛金 150,000円売上高 150,000円決済代行業者経由の入金
プラットフォーム手数料販売手数料 15,000円売掛金 15,000円手数料差引入金対応
PayPal決済手数料支払手数料 500円普通預金 500円海外決済時に自動控除

このように、越境取引では複数通貨・複数決済ルートを統一して管理する必要があります。
クラウド会計では「外貨建取引」設定をONにし、レートを自動更新することで処理精度を高められます。


FP・税理士が行うべき顧客支援

副業や越境取引においては、帳簿処理以上に「教育と運用支援」が重要です。

  • 取引証憑のアップロード・保存ルールを明示
  • 青色申告承認申請・消費税課税事業者届出のサポート
  • 通関証憑や海外請求書を含むクラウド上での証憑共有体制を整備
  • 年度末に備えて「証憑チェックリスト」を活用

こうした仕組みを早期に導入しておくことで、副業者・小規模事業者が制度変更に左右されず安定した経理体制を築くことができます。


結論

越境ECと副業の広がりにより、個人レベルでも国際取引の会計処理と電子保存対応が不可避の時代に入りました。
税理士・FPが果たすべき役割は、帳簿をつけることではなく、制度・ツール・運用をつなぐ支援者としての立場です。

クラウド会計と電子帳簿保存法を組み合わせることで、

  • 複雑な越境取引の可視化
  • 証憑管理の自動化
  • 税務調査リスクの低減
    が同時に実現します。

「副業だから小規模だから」という理由での簡略処理は通用しません。
今こそ、副業者にも“実務レベルの会計品質”を――これが、税理士・FPが担う次の使命です。


出典

出典:財務省「令和8年度税制改正要望」・国税庁「電子帳簿保存法Q&A(令和6年改訂)」
2025年11月 日本経済新聞「個人輸入の税優遇廃止」関連記事


という事で、今回は以上とさせていただきます。

次回以降も、よろしくお願いします。

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