海外EC・副業販売の税務処理 ― 輸入取引から確定申告まで

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個人で海外から商品を仕入れ、国内で販売する「越境EC副業」が広がっています。
TemuやAliExpress、SHEINなどを通じて低価格の商品を輸入し、フリマアプリやSNSで販売する例も増加しています。
しかし、こうした取引は税務上はれっきとした事業活動として扱われる場合があり、申告漏れや経理処理の誤りが相次いでいます。

本稿では、税理士・FPの視点から、海外ECを活用した副業販売の税務処理と確定申告上のポイントを整理します。


輸入段階で発生する税金 ― 「仕入時点の課税」を正確に把握

海外から商品を購入すると、国内での通関時に輸入消費税と関税が課されます。
この輸入消費税は、消費税法上「課税仕入」に該当し、

  • 課税価格(CIF価格)×税率(10%)
    で計算されます。

仕入税額控除を適用するためには、次の書類がインボイス相当書類として必要です。

  • 税関発行の輸入許可通知書
  • 輸入納税申告書(納付額記載あり)

これらを保存しなければ、仕入税額控除は認められません。
また、仕入時に消費税を負担しているにもかかわらず、帳簿上で「非課税」扱いにしてしまうミスが多く、経理処理段階での区分管理が重要になります。


販売段階での所得区分 ― 雑所得か事業所得か

副業での越境販売は、所得区分を誤ると確定申告の内容が大きく変わります。

① 雑所得扱いになる場合

  • 不定期・小規模な販売で営利性が低い場合
  • 年間取引が少額で、継続性・独立性が認められない場合

この場合は青色申告の対象外となり、経費控除にも制限があります。
たとえばメルカリなどで不用品を時々販売しているレベルなら、雑所得または非課税取引として扱われます。

② 事業所得扱いになる場合

  • 仕入・販売を反復継続して行い、営利目的が明確な場合
  • 在庫管理、売上計画、宣伝活動など事業としての実態がある場合

この場合は青色申告が可能で、仕入原価・送料・販売手数料・光熱費・通信費などを必要経費として計上できます。
ただし、青色申告を行うためには開業届と青色申告承認申請書を事前に提出する必要があります。
(提出期限:原則として開業から2か月以内)


消費税の課税区分とインボイス対応

越境取引を含む副業販売でも、課税売上高が1,000万円を超えると消費税課税事業者となります。
課税事業者になると、輸入消費税の仕入控除が可能になる一方で、売上側にも消費税の納税義務が生じます。

インボイス制度の下では、次の点に注意が必要です。

  • 販売先(国内顧客)が事業者の場合、適格請求書発行事業者への登録が必要。
  • 海外顧客への販売は輸出免税取引として扱うが、輸出証憑(インボイス・輸出許可書等)の保存が必須。
  • 海外ECプラットフォームを介した販売では、誰が納税義務者か(本人かECサイトか)を契約上確認する。

副業レベルであっても、「輸入時に仕入税額控除」「販売時にインボイス発行」という二段階管理を意識することが、今後の税務実務では求められます。


確定申告における実務ステップ

越境EC・副業販売を行う場合の確定申告フローは以下の通りです。

  1. 輸入記録の整理
     輸入許可通知書・納税申告書を保管。通関時の税金は経費または仕入税額控除対象。
  2. 売上記録の整理
     プラットフォーム明細(Temu、SHEIN、Amazon等)をダウンロードし、売上日ごとに集計。
  3. 必要経費の計上
     送料・通信費・梱包資材費・プラットフォーム手数料などを区分管理。
  4. 帳簿作成と所得区分判定
     青色申告ソフト(弥生・freee・マネーフォワード等)で仕訳登録。雑所得か事業所得かを整理。
  5. 消費税の課税区分確認
     課税売上1,000万円超の見込みがあれば、翌期から課税事業者として届出。

こうした基礎整理を怠ると、輸入取引に係る消費税が重複計上されるなどの誤りが生じやすく、税務調査時に指摘を受けるリスクがあります。


税理士・FPが果たす役割 ― 副業支援から国際課税への備えへ

海外ECを活用する個人は今後さらに増加が見込まれます。
税理士やFPは、次の3点を念頭に支援体制を整える必要があります。

  1. 越境取引に対応した会計指導
     輸入・販売・決済・通関を一体で把握し、課税区分を明確化する。
  2. 青色申告・インボイス・電帳法を横断管理
     証憑の電子化・整備を促し、制度横断的な整合性を確保。
  3. 副業者への税務教育とモラル支援
     「個人使用」と「事業目的」の区別を正しく理解させ、安易な申告回避を防ぐ。

こうした支援を通じて、小規模EC事業者や副業者を法令遵守と税務リスク管理の両面でサポートすることが求められます。


結論

個人による越境EC副業は、もはや趣味の延長ではなく、課税・会計・制度対応の複合領域に入っています。
デミニミス・ルールや個人輸入特例の廃止により、海外取引は今後すべて課税管理の対象となる方向です。

税理士・FPは、

  • 副業者・小規模EC事業者に対し、帳簿・証憑・税務処理の整理を指導し、
  • 制度改正後の越境課税のルールを正しく伝えることで、
    「副業=グレーゾーン」の時代を終わらせる橋渡し役を担うべきです。

出典

出典:2025年11月3日 日本経済新聞朝刊「個人輸入の税優遇廃止」
国税庁「個人事業者の青色申告制度の手引き」
財務省「令和8年度税制改正要望」・関税局資料


という事で、今回は以上とさせていただきます。

次回以降も、よろしくお願いします。

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