2023年10月に始まったインボイス制度(適格請求書等保存方式)は、国内取引を前提に設計されています。
しかし、海外のEC取引や個人輸入など「越境取引」にも関連するケースが増え、税理士・FPの実務では「どの段階で課税取引になるのか」「仕入税額控除はどう扱うのか」といった判断が複雑化しています。
本稿では、海外EC課税見直しや個人輸入特例の廃止をふまえ、越境取引におけるインボイス制度対応の実務リスクとチェックポイントを整理します。
インボイス制度の原則 ― 「国内課税」が基本
インボイス制度は、日本国内で行われる課税取引を対象としています。
つまり、
- 国内での資産の譲渡や役務提供
 - 輸入に係る課税取引(消費税法第4条・第45条)
が対象となります。 
海外の事業者が日本国内の消費者に直接商品を販売する場合、原則として輸入時点で消費税が課されるため、インボイスは「通関段階の課税証憑」に置き換わる扱いになります。
このため、海外事業者から届く「請求書」や「領収書」には、適格請求書番号が記載されないのが通常です。
越境取引における主要な税務リスク
海外ECや個人輸入に関する取引では、インボイス制度下で次のようなリスクが想定されます。
① 仕入税額控除の適用漏れ
通関時のインボイス(輸入許可通知書等)を正式な「課税証憑」として保存しなければ、仕入税額控除を受けられない。
電子データのみ保存している場合、税務署が「証憑不備」と判断することがあるため、通関書類(CIF価格、輸入納税申告書等)の原本確認が重要です。
② 海外ECプラットフォームの納税責任不明確化
TemuやSHEINなど、海外プラットフォームを介した販売では、販売者・運送業者・通関業者のいずれが納税義務者なのかが不明確になりがちです。
今後、財務省が検討する「プラットフォーム課税」が導入されれば、事業者は代理納税義務を負う可能性があります。
税理士としては、契約書・取引スキームを確認し、課税区分を明確にする支援が求められます。
③ 「個人使用」か「事業仕入」かの線引き問題
制度廃止後も、「個人使用目的」として申告すれば輸入税額を軽減できると誤解するケースが懸念されます。
しかし、実際には転売目的や反復取引があれば事業仕入とみなされ、課税仕入扱いとなります。
FPや税理士は、クライアントが副業・越境販売を行う場合、輸入時点の区分判断を指導することが重要です。
実務対応チェックリスト ― 税務調査を見据えて
| 項目 | チェック内容 | 実務上の留意点 | 
|---|---|---|
| ① インボイス番号 | 国内取引は適格番号の有無を確認 | 海外取引には番号がないため、通関証憑で代替 | 
| ② 輸入証憑の保存 | 「輸入許可通知書」「納税申告書」などを原本・電子で保存 | 仕入税額控除の必須要件。電子帳簿保存法対応も | 
| ③ 取引区分 | 個人使用か事業仕入かを明確化 | 継続輸入や販売目的があれば事業扱い | 
| ④ 販売責任者の特定 | ECプラットフォーム経由取引では契約書を確認 | 税務上の責任主体を明確化 | 
| ⑤ 消費税課税区分 | 輸入取引=課税仕入(第45条)に該当 | 免税・非課税の誤区分に注意 | 
| ⑥ 帳簿記録 | 通関金額・課税価格・税率を正確に記帳 | 為替換算レートの記載も要 | 
このような管理を怠ると、税務調査で仕入控除否認・過少申告加算税のリスクが生じます。特に、海外ECを利用する個人事業主や小規模通販業者では、仕入証憑が整備されていない事例が多く見られます。
越境取引と電子帳簿保存法の接点
2024年以降は、電子取引データの保存義務が完全適用されています。
海外サイトの請求書や領収書をPDFやスクリーンショットで保存する場合、改ざん防止措置(タイムスタンプ、訂正削除ログ等)が求められます。
クラウド会計ソフトを利用する場合でも、インボイス制度+電帳法の二重チェックを意識して運用することが重要です。
結論
インボイス制度の導入は、国内取引だけでなく越境EC・個人輸入の税務にも大きな影響を及ぼしています。
2026年度の税制改正で個人輸入特例やデミニミス・ルールが廃止されれば、越境取引における消費税の公平化と徴収強化が本格化します。
税理士・FPとしては、
- 越境取引の課税構造を正確に把握し、
 - 通関証憑・電子帳簿の整備を指導し、
 - 顧客や相談者に「インボイス制度は国内だけの話ではない」ことを啓発する、
――この3点を柱にした支援体制が求められます。 
出典
出典:2025年11月3日 日本経済新聞朝刊「個人輸入の税優遇廃止」
財務省「令和8年度税制改正要望」関連資料
国税庁「インボイス制度における輸入取引の取扱いFAQ」(2024年改訂版)
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
  
  
  
  