高市政権が掲げる「日本成長戦略」は、資産運用立国や危機管理投資を中心に、成長志向を明確に打ち出した政策パッケージです。
官民の投資を呼び込み、経済構造を変えるという方向性には市場の期待も集まっていますが、問題は「どこまで実効性を伴うか」です。
本稿では、政策が実際に市場・企業・家計の行動変化につながるかどうかを軸に、成長戦略の評価と課題を考えます。
政策期待と市場の初期反応
2025年10月以降、株式市場は明確に「政策期待相場」を反映しています。日経平均株価は史上初の5万2000円台に到達し、高市首相による積極的な財政方針が投資マインドを刺激しました。
市場の反応の背景には、単なる財政支出拡大への期待だけでなく、「構造改革と成長投資が両立する可能性」への評価があります。
とくに注目されるのは、次の3点です。
- 官民投資の一体化 ― 危機管理投資を通じた公的資金と民間資金の連動。
- 資産運用立国による家計マネーの活性化 ― NISA拡充を契機とした投資層の拡大。
- ガバナンス改革の継続性 ― 自社株買いから成長投資へと向かう企業の姿勢。
これらの「政策の継続性」が、外国人投資家の安心感を支える要素になっています。岸田政権から高市政権への“政策の断絶”がなかったことが、市場の安定に寄与したともいえます。
実効性を左右する「行動変化」
政策の真価は、数字ではなく行動の変化に現れます。
家計が投資を始め、企業が成長投資に資金を振り向ける。こうした動きが同時に進んでこそ、成長戦略は成果を上げます。
しかし現状では、家計の投資行動にはまだ慎重さが残り、企業部門でも「内部留保依存」からの脱却は道半ばです。
政府が「金融教育」や「リスキリング支援」を強化しても、行動変容には時間がかかります。
つまり、成長戦略の実効性を高めるためには、制度整備に加えて心理的障壁を取り除く施策が不可欠です。
税制優遇・情報開示・教育・ガバナンスという複数の政策手段を同時に動かす「総合運用」が求められます。
官民ファンドと市場資金の橋渡し
前回取り上げた官民ファンド再編は、政策資金を成長領域へ流すための要となります。
一方で、市場の視点から見ると「官製投資の継続性」への懸念も根強いのが実情です。
官民ファンドによる支援がプロジェクト単位で終わる場合、持続的な市場循環には結びつきにくいという課題があります。
この問題を克服するためには、
- 投資後の出口戦略(IPO・M&A・再投資)を明確化すること
- 成果指標を「雇用創出・技術波及・民間投資誘発効果」など多面的に設定すること
が重要です。
成長戦略が成功するかどうかは、「官民ファンドが市場とどう接続するか」にかかっています。金融市場の健全な競争環境と政策支援の連携こそ、実効性を支える鍵といえます。
政策から行動への転換 ― 信頼が資本を動かす
資産運用立国や危機管理投資はいずれも、信頼を基盤に成り立つ政策です。
市場が政府を信頼し、企業が将来を信じ、家計が経済を信頼する――。その循環が初めて投資を動かします。
この信頼を築くためには、政策の透明性と説明責任が欠かせません。
特定分野への補助や支援が「政治主導の選別」ではなく、「客観的な成長戦略」として見える形にすることが、長期的な資本形成の前提になります。
市場は数字だけでなく、政策の一貫性と説明力を評価します。これが今後の成長戦略における最大の試金石です。
結論
高市政権の「日本成長戦略」は、岸田政権以来の流れを継承しながら、成長と投資を前面に出した“政策の実行段階”に入りました。
しかし、制度を整えるだけでは経済は動きません。投資を促すには、家計・企業・市場それぞれの信頼と行動変化を引き出す仕掛けが必要です。
政策を“宣言”から“行動”へとつなげること――。
それが、資産運用立国・危機管理投資を含む日本の成長戦略の実効性を決定づける最大の要因となるでしょう。
出典:
2025年11月3日 日本経済新聞「『資産運用立国』岸田路線を継承」
東京証券取引所「2025年10月 月次市場概況」
内閣府「日本成長戦略本部(第1回)会合資料」
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
