共生社会と社会保障 ― 多様性の時代に問われる“支え合い”のかたち

FP

日本社会は今、人口減少と国際化という二つの大きな変化に直面しています。
外国人労働者や留学生が増えるなかで、社会保障制度は国籍や属性を超えた包摂性を求められています。
「共生社会と社会保障」シリーズでは、国民健康保険、年金、医療アクセス、教育・雇用支援といったテーマを通じて、
制度と現場の双方から、これからの社会のあり方を考えてきました。

本稿では、その全体像を振り返りながら、共生社会の実現に向けた課題と展望を整理します。


第1章 国民健康保険と公平性の課題

国民健康保険(国保)は、自営業者やフリーランス、無職の人などが加入する地域単位の医療保険です。
しかし、外国人を含む一部住民で未納が深刻化しており、徴収と支援の両面で自治体が苦慮しています。

東京都新宿区では2025年、専従の「滞納対策課」を設けて納付率向上に取り組みましたが、
外国人世帯の納付率は50%台にとどまり、言語・文化の壁が制度理解を妨げている現実があります。

未納分を税金で補う構造は、制度への信頼を損ないかねません。
一方で、外国人の医療費支出は全体の1.4%程度にすぎず、財政への影響は限定的です。
問題の本質は「滞納」ではなく、「理解と周知の不足」にあるといえます。

徴収の強化だけでなく、制度の説明・通訳体制の充実など、“支援と公平性”の両立が求められています。


第2章 外国人と年金制度 ― 支え合いの仕組みに国籍の壁はあるか

日本で働く外国人は、国民年金または厚生年金への加入が義務づけられています。
しかし、短期滞在者や技能実習生の多くは「払っても戻らない」と感じています。

帰国時に支給される脱退一時金は最長3年分しか対象とならず、
再来日した場合も通算できないなど、長期保障につながらない仕組みです。

また、母国の年金制度との二重加入問題もあり、これに対応するため日本は24か国と社会保障協定を結んでいます。
しかし、ベトナムやインドネシアなど主要な実習生出身国との協定は未締結であり、今後の課題となっています。

年金制度の公平性を確保するには、国籍を超えた期間通算の拡大と、
外国人労働者への年金教育・情報提供の強化が欠かせません。


第3章 外国人と医療アクセス ― 地域格差と制度のすき間

医療アクセスには、「言語」「経済」「制度」の3つの壁があります。
保険未加入や未納により資格証明書を交付されると、医療費は全額自己負担となり、
結果として「受診しない」「我慢する」ケースが増えています。

東京都など大都市では多言語医療相談センターを設けていますが、
地方では医療通訳人材が不足し、支援体制に格差が生じています。

コロナ禍では通訳不在や情報不足により、検査やワクチンを受けられない外国人が多く、
「制度上の公平」と「現場での実効性」の乖離が明らかになりました。

共生社会における医療とは、国籍にかかわらず安心して受診できる環境を整えること。
それは、医療だけでなく社会全体の包摂力を高める取り組みでもあります。


第4章 教育と雇用 ― 社会参加の基盤をどう築くか

教育と雇用は、社会参加の根幹をなす仕組みです。
外国人児童生徒の日本語支援が十分でない地域では、学力格差が将来的な就労格差へと連鎖します。
教育格差は「社会保障格差」の入口でもあります。

また、雇用の現場では、在留資格の制限や制度の複雑さがキャリア形成を妨げています。
技能実習生の転職制限や、雇用条件説明の日本語偏重など、“見えない壁”が依然として残ります。

政府は「共生人材プログラム」を通じ、日本語教育・職業訓練・就職支援を一体的に行う方針を掲げました。
教育と雇用を切り離さず、生活全体を見通した支援を行うことが、共生社会の鍵となります。


第5章 共生社会の社会保障 ― 支え合いの未来へ

これまで見てきたように、
国民健康保険・年金・医療・教育・雇用という各制度は、
外国人の増加や多様な働き方の広がりによって構造的な見直しを迫られています。

共生社会とは、支援の対象とするか否かではなく、
「誰もが制度に参加し、支え合う側にも回れる社会」を指します。

そのためには、次の3点が重要です。

  • 制度の理解促進:多言語化と社会保障教育の徹底
  • 公平性の確保:負担と給付の透明性、協定拡大
  • 現場との連携:自治体・企業・地域団体の協働

制度を“守る”のではなく、“進化させる”こと。
それこそが、これからの社会保障が果たすべき役割です。


結論

共生社会と社会保障を考えることは、単に外国人支援を論じることではありません。
少子高齢化の中で、誰が社会を支えるのか、どのように支え合うのかという問いそのものです。

医療・年金・教育・雇用――そのすべての制度が、個人の属性ではなく「人としての生活」を支える仕組みへ進化する。
それが、共生社会の本質です。

国籍や立場を超え、「ともに生きる」社会を築くこと。
それが、このシリーズ全体を貫くメッセージです。


出典

  • 厚生労働省「国民健康保険事業年報」「社会保障協定の概要」
  • 日本年金機構「脱退一時金制度のご案内」
  • 内閣官房「外国人政策事務局 年次報告」「共生人材プログラム概要」
  • 文部科学省「日本語指導が必要な児童生徒の受け入れ状況」
  • 日本経済新聞(2024〜2025年 各報道)
  • OECD, WHO 各種報告書(2024〜2025)

という事で、今回は以上とさせていただきます。

次回以降も、よろしくお願いします。

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