共生社会と教育・雇用支援 ― 社会参加の土台をどう築くか

FP

共生社会とは、国籍や年齢、性別、障害の有無などにかかわらず、すべての人が尊重され、社会の一員として共に生きる社会を指します。
医療や年金といった社会保障制度は、この理念を支える重要な仕組みですが、もう一つ見逃せない柱が「教育」と「雇用」です。

教育は社会への入口であり、雇用は社会の中での居場所をつくります。
この二つが安定して初めて、真の意味での社会参加が可能になります。
しかし現実には、外国人や社会的弱者がこの土台にアクセスすることは容易ではありません。


教育格差と「言葉の壁」

文部科学省によると、日本の義務教育段階で日本語指導が必要な外国籍児童生徒は2024年度に約5万5千人と過去最多となりました。
学校現場では多文化共生の取り組みが広がっていますが、対応は自治体によって差があり、
「日本語の壁」が学習機会の格差につながる現実があります。

多くの外国人家庭では、親自身が日本語教育を受けておらず、家庭学習の支援が難しい状況にあります。
結果として、子どもの学力・進学率が低下し、将来的な就労機会の制約にもつながるという「教育から雇用への格差連鎖」が生じています。

一方で、愛知県や神奈川県などでは、外国籍児童への日本語教育支援員を常勤化するなど、教育格差を縮める試みも進んでいます。
教育への投資は短期的にはコストでも、長期的には社会統合の最も確実な手段です。


雇用の現場に残る“見えない壁”

厚生労働省の統計では、外国人労働者は2025年時点で約210万人。製造業や介護など労働力不足を支える重要な存在です。
しかし、就労ビザや技能実習制度など、在留資格によって職種や地域が限定されるため、雇用の安定には課題が残ります。

とりわけ、技能実習生が転職やキャリアアップを希望しても制度上の制約で動けないケースが多く、
「働く自由」が保障されないことが本人の成長だけでなく、企業の人材定着にも悪影響を及ぼしています。

さらに、外国人雇用を支える中小企業では、
雇用契約書や労働条件の説明が日本語のみで行われるなど、トラブルの温床となる場面もあります。
共生社会の雇用支援とは、単に「雇うこと」ではなく、「理解し合い、継続して働ける環境を整えること」にほかなりません。


政策転換の動き ― 教育から雇用への連続支援

政府は2024年から、外国人材の受け入れと定着を目的とした「共生人材プログラム」を開始しました。
日本語教育、職業訓練、就職支援を一体的に行う仕組みであり、地方自治体や企業との連携が進みつつあります。

また、文部科学省は高校・専門学校段階での「多文化キャリア教育」を推進し、
日本語教育と職業教育を組み合わせたモデル校を全国で整備しています。
こうした動きは、教育・雇用・生活を分断せず「人の一生」を見通した支援へと舵を切る試みといえます。

国際的には、カナダやオランダなどが「移民のキャリア統合政策」を実施し、
言語教育、就労支援、子育て支援を一体で提供しています。
日本でも「働けるかどうか」だけでなく、「働き続けられる環境をどう整えるか」に視点を広げることが求められます。


地域社会が担う役割

共生社会を支えるのは、制度だけではありません。
企業や学校、地域団体など、身近なコミュニティが外国人住民や多様な背景を持つ人々を受け入れる力を育てていくことが重要です。

近年では、地域の商工会議所や社会福祉協議会が連携し、外国人向けのキャリア相談会や合同就職説明会を開催する事例も増えています。
また、NPOやボランティア団体が教育支援教室や日本語教室を運営し、地域での学びと交流を支えています。

制度の整備と地域の実践。この両輪がかみ合うことで、初めて「共生社会の教育と雇用」は機能します。


結論

教育と雇用は、社会参加の最も重要な基盤です。
外国人や社会的弱者がこの基盤から排除されることは、共生社会全体の安定を脅かします。
一人ひとりが「学び」「働き」「支え合う」ための環境を整えることは、社会保障制度の外側にある“もう一つの社会保障”といえるでしょう。

共生社会とは、支援される側と支える側の境界をなくす取り組みです。
教育と雇用を通じて、人々が自らの力で社会に関わり、共に成長できる――。
それこそが、未来へ続く「共生社会と社会保障」の姿なのです。


出典

  • 文部科学省「日本語指導が必要な児童生徒の受け入れ状況」(2024年)
  • 厚生労働省「外国人雇用状況の届出状況まとめ」(2025年)
  • 内閣官房「共生人材プログラム概要」(2024年)
  • 日本経済新聞「外国人雇用と教育格差の接点」(2025年3月)
  • OECD “Inclusive Employment and Education Policies”(2024)

という事で、今回は以上とさせていただきます。

次回以降も、よろしくお願いします。

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