積極財政時代の税制・企業戦略 ― 政策転換期に求められる実務対応

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2025年の日本経済は、財政・金融・市場が同時に動く「政策転換期」を迎えています。
高市早苗政権の掲げる「積極財政」は、防衛・公共・成長投資を軸に経済を押し上げ、日経平均株価は史上初の5万2000円を突破しました。
しかし、この急上昇の裏側では、税制の再設計、企業投資の再配分、金利上昇リスクといった現実的な課題も同時に進行しています。

本稿では、これまでのシリーズで取り上げた要素(政策・租特・産業波及・金利)を横断的に整理し、
「積極財政時代」における税制と企業戦略のあり方を、実務的な視点から総括します。


1.積極財政の全体構造 ― 財政拡大と再配分の二層構造

積極財政は単に国の支出を増やす政策ではなく、拡張と再配分の二層構造で成り立っています。

  • 第1層(拡張):防衛・公共・成長投資など、マクロ経済の押上げを目的とする支出拡大
  • 第2層(再配分):租税特別措置や補助金制度を通じた産業選別と財源再構成

この構造によって、「どの分野に、どのように財政資金を流すか」という政策選別が行われています。
そのため、税理士・経営者に求められるのは、単に税率や控除額を追うことではなく、
「国の資金の流れを読む力」です。政策の方向性を先取りすることが、経営判断そのものに直結します。


2.租税特別措置の再設計と企業行動の変化

シリーズ第2回で触れたように、租税特別措置(租特)は「減税の棚卸し」が進んでいます。
効果が薄い制度を廃止し、研究開発・賃上げ・人的投資などの成長分野に再集中する動きが顕著です。

この結果、企業行動にも変化が生まれています。

  1. 減税依存から成果志向へ:税制優遇を前提とせず、投資成果(KPI・人的資本開示)を重視する傾向が拡大。
  2. 中小企業の差別化圧力:租特縮小で税負担格差が縮まり、補助金や地方支援策の活用が鍵に。
  3. 税務・会計連動の強化:租特利用可否が経営戦略・財務報告に直結するため、税理士の助言価値が高まる。

税制はもはや「減税か否か」ではなく、「政策目的にどこまで整合しているか」が評価軸となりました。


3.防衛・公共投資の波及 ― 新たな企業連携と財務課題

防衛・公共投資の拡大は、製造業・建設業・IT業の垣根を越えた産業連携を生み出しています。
政府調達や補助金の分野では、入札要件にESG・ガバナンス対応が組み込まれ、
企業は「財務+非財務情報」を統合的に提示する体制整備を迫られています。

この動きにより、会計・税務上の論点も増えています。

  • 長期契約の進行基準の適用範囲の明確化
  • 補助金収入の税務処理・損金算入時期の検討
  • 防衛関連設備投資の減価償却・特別償却の扱い

税理士にとって、こうした新領域の知識更新は不可欠です。
積極財政の拡大は、会計処理の高度化と情報開示の精緻化を同時に求めています。


4.金利・インフレ・財源 ― 財政運営の新しい均衡点

積極財政の持続性を左右するのは、「金利」「インフレ」「税収」のバランスです。
金利上昇が財政負担を増やしすぎれば、政策余地が狭まります。
逆に、適度なインフレが続けば、名目GDPと税収が伸び、財政の回収力が高まります。

現在の政府・日銀は、

  • 金融緩和を維持しつつ、金利上昇を容認する「中間政策」
  • インフレ3%台を許容しつつ、実質賃金上昇を狙う「構造的インフレ政策」
    を採用しています。

これは、1990年代の緊縮財政とは異なる新しいバランスの模索です。
政策環境が大きく変わる今こそ、税理士がマクロ経済を理解する力が求められています。


5.積極財政時代の企業戦略 ― 税務・金融・経営をつなぐ

積極財政の下では、企業経営も「政策とともに動く」時代に入りました。
税理士・経営者が今後意識すべきポイントは、次の3点に集約されます。

  1. 政策動向の経営反映
     租特・補助金・公共調達の方向性を定期的に把握し、投資戦略へ反映。
  2. マクロ連動型の財務戦略
     金利・物価・税率の動きを踏まえ、長期借入や減価償却を設計。
  3. 税務・会計・経営の統合
     税務処理の判断が経営戦略の前提となるため、財務諸表と税務申告の連動を強化。

税理士は、これまでの「制度適用の専門家」から、「政策を経営に翻訳する専門家」へと進化が求められています。


結論

「積極財政時代」は、単なる景気刺激ではなく、国家と企業がともに構造転換を進めるフェーズです。
税制はその中核に位置し、企業経営・投資判断・会計処理のすべてが政策連動型に変化しています。

租税特別措置の再設計、防衛・公共投資の拡大、金利・インフレの新均衡——。
これらを一体として読み解く力こそ、これからの税理士・会計人に求められる実務知です。

積極財政の波にどう向き合い、どの方向で専門性を発揮するか。
それが、政策転換期を生きる私たちに問われている次の課題です。


出典
・日本経済新聞「日経平均初の5万2000円台 高市相場、10月上げ最大」(2025年11月1日)
・財務省「令和7年度税制改正要望主要項目」
・内閣府「経済財政運営と改革の基本方針2025」
・日本銀行「金融政策決定会合 議事要旨(2025年10月)」
・防衛省・国土交通省 各年次報告書(2025年版)


という事で、今回は以上とさせていただきます。

次回以降も、よろしくお願いします。

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