高市政権の「積極財政」方針の下で、2025年度予算では防衛力強化と公共投資の拡充が柱に据えられています。
この方針は単なる支出拡大ではなく、安全保障と成長戦略を結びつける経済運営モデルを志向している点に特徴があります。
本稿では、税理士・経済政策の観点から、防衛投資・公共投資がどのように産業全体へ波及し、企業行動や税収構造に影響を与えるのかを分析します。
1.防衛投資の新段階 ― 経済安全保障と産業政策の融合
高市政権が掲げる防衛費GDP比2%目標の前倒しは、単なる防衛支出の増額にとどまりません。
政府調達の長期化、国内生産体制の維持、AI・量子・通信分野との連携など、経済安全保障と産業振興の一体化を意識した構造になっています。
とくに、三菱重工業・IHI・川崎重工業といった防衛関連大手だけでなく、材料・電子部品・情報通信などの裾野産業にも波及効果が広がっています。
AI制御、サイバー防衛、無人機技術などの新分野では、スタートアップや中堅企業の参入も進みつつあり、
防衛投資が「技術の社会実装」を促す構造に変化しています。
2.公共投資の再定義 ― インフラからデジタルへ
一方、公共投資も従来の土木中心から大きく転換しつつあります。
国土強靱化や災害対策に加え、デジタル・インフラ整備(DXインフラ)が重点分野に位置付けられています。
主な特徴は次の通りです。
- スマートシティ・防災通信網・5G基地局整備への国費投入
- 地方自治体へのデジタル補助金拡充
- 公共調達プロセスの電子化による業務効率化
この結果、建設業・IT業・通信業の間で新たな連携構造が生まれています。
建設業界ではBIM/CIM導入が進み、会計・税務の現場でも受注・進行基準のデジタル管理が課題として浮上しています。
公共投資の拡大は、会計処理や収益認識の面でも税理士業務に直接的な影響を及ぼす分野です。
3.産業別波及効果 ― 「一次波及」と「二次波及」
経済産業研究所(RIETI)の試算によると、防衛・公共投資1兆円の追加支出は、短期的に約1.6兆円のGDP押上げ効果を持ちます。
波及経路は大きく二段階に分かれます。
- 一次波及(直接需要)
政府調達や工事発注によって関連産業の売上が増加。製造業・建設業・ITサービスが主な受益業種。 - 二次波及(誘発需要)
雇用・所得の増加により消費が拡大し、小売・運輸・不動産などの民間需要が刺激される。
特に、中小企業の地域下請けに波及する比率が高く、地方経済の底上げにもつながります。
このため、税制面でも中小企業の投資促進を後押しする措置(特別償却・中小企業経営強化税制など)の維持が重要な役割を果たします。
4.財政政策と民間投資の連動
防衛・公共分野への支出拡大は、同時に民間投資を喚起します。
民間企業は、国の調達・補助金・規制緩和の方向性を見極めながら、先行投資やM&Aを通じて事業領域を広げる傾向があります。
たとえば、
- 防衛関連:AI監視システム、ドローン、サイバーセキュリティ
- インフラ関連:再生可能エネルギー、EV充電網、デジタル建設
- 公共IT関連:自治体向けSaaS、電子入札・文書管理システム
これらの分野では、税理士・会計専門家が「補助金・税制・投資会計」を横断的に把握することが求められます。
積極財政は「税制の再配分」であると同時に、民間投資を導くシグナル政策として機能しています。
5.税収・財政構造への波及
財政支出の拡大は短期的に財政赤字を拡大させますが、企業収益の増加が続けば法人税収の増加として回収されます。
2025年度予算試算では、設備投資増加による税収押上げ効果は約2兆円と見込まれています。
このように、支出→投資→所得→税収という循環構造が成立すれば、積極財政は中期的に財政健全化と両立します。
ただし、そのためには、租税特別措置や補助金制度を通じた「誘導の質」を高める必要があります。
政策と財務会計の連動を読み解くことこそ、税理士が担う専門領域の核心といえるでしょう。
結論
防衛投資と公共投資は、単なる景気刺激策ではなく、産業構造を再設計する戦略的支出として位置付けられています。
積極財政が持続可能な形で機能するためには、投資の配分・成果・税収還元の循環を明確にすることが不可欠です。
税理士・会計専門家は、財政政策と企業経営をつなぐ実務の中核として、
今後ますます「政策を読み解く会計人」としての役割を果たしていくことになるでしょう。
出典
・日本経済新聞「日経平均初の5万2000円台 高市相場、10月上げ最大」(2025年11月1日)
・防衛省「防衛力整備計画(2025年度版)」
・国土交通省「公共投資実態調査報告(2025年)」
・経済産業研究所(RIETI)「防衛・公共投資の波及効果分析(2024)」
・財務省「令和7年度税制改正要望主要項目」
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
