2025年10月、日経平均株価は初めて5万2000円の大台に到達しました。高市早苗首相の就任を契機に生まれた「高市相場」は、積極財政への期待を背景に、わずか1カ月で17%という異例の上昇率を記録しました。
この現象は単なる株高ではなく、財政政策・金融政策・投資心理の三層構造が同時に作用した結果とみることができます。本稿では、税理士・経済政策の視点から、「積極財政」と「株価」の相関関係を多角的に整理します。
1.積極財政が株式市場に与える影響メカニズム
積極財政とは、景気下支えや成長促進を目的に、国が支出を拡大する政策を指します。一般的に株価を押し上げる経路は次の3つです。
- 需要喚起効果
公共投資や防衛支出などの拡大により、関連産業の売上や雇用が増加します。とくに建設・防衛・インフラ関連銘柄は財政支出の初動に敏感です。 - 企業業績の底上げ
支出拡大が波及し、民間の設備投資・消費が活発化することで、企業の売上・利益見通しが上方修正されます。PER(株価収益率)の拡大につながります。 - マインド効果
「政府が景気を下支えする」というメッセージが市場心理を安定させ、リスク資産への資金移動を促します。とくに海外投資家にとって政策安定は重要な投資判断要因です。
このように、積極財政は実体経済だけでなく、期待のチャンネルを通じて株価を押し上げる性質を持ちます。
2.高市政権下の積極財政策略と市場反応
高市首相は就任直後の所信表明で「強い経済」を繰り返し強調し、防衛費のGDP比2%達成時期の前倒しや、成長投資の加速を明言しました。
これが市場では「政策の明確化」と受け止められ、投資家は防衛・インフラ・AI関連を中心に買いを広げました。
実際、東京証券取引所の統計では、海外投資家が10月に現物株を3兆円超買い越し、主導的な買い手となっています。
この動きは「アベノミクス初期」のパターンを再現しており、財政・金融の同時緩和が株価を押し上げる構図が再び現れた形です。
3.財政拡張の副作用と市場の見極め
一方で、積極財政は短期的に株価を押し上げても、中長期的には次のようなリスクを伴います。
- 金利上昇リスク:国債発行の増加が続けば、長期金利上昇や円安進行を通じて金融市場が不安定化する可能性があります。
- インフレ圧力の持続:公共投資や防衛需要が続けば、資材・人件費が上昇し、企業の実質利益を圧迫しかねません。
- 財政健全化との両立課題:税収の伸びが追いつかない場合、増税や支出削減が将来的に求められ、株価の重荷になる懸念もあります。
そのため、投資家は「財政拡大の中身」と「実行力」に注目しています。単なるバラマキではなく、成長投資への配分比率が高いほど市場は評価する傾向があります。
4.税制改革と企業価値評価への波及
税理士の視点で見ると、積極財政の原資をどう確保するかは重要な論点です。2025年度税制改正では、以下のような動きが想定されています。
- 租税特別措置(租特)の見直し
研究開発減税・賃上げ促進税制の効率性を検証し、「成長効果の低い減税」を縮小する方向が議論されています。 - 防衛財源としての法人課税の再構成
防衛関連支出を恒久財源化するため、租特廃止や法人税の一部付加が検討対象になり得ます。 - 所得再分配強化
給付付き税額控除など「積極財政×再分配」の仕組みを通じて、消費底上げと社会保障支出のバランスを取る試みも議論されています。
こうした政策が企業の実効税負担やキャッシュフローに影響するため、税理士としても「財政政策と企業会計・税務の連動」を読み解く力が求められます。
5.持続可能な積極財政の条件
市場が求めるのは、単なる支出拡大ではなく、構造的な成長戦略を伴う積極財政です。
防衛・インフラ・AI・エネルギーなどへの投資が、将来的な税収増加を生み出す構造であれば、財政拡大は「健全な負債」として評価されます。
この意味で、税理士や経済専門職に求められるのは、短期の景気刺激ではなく、政策の投資効果を定量的に評価する視点です。財政政策が企業の資本効率・株主還元・税負担にどう波及するかを分析できる専門家の価値は、今後さらに高まるでしょう。
結論
日経平均5万2000円の背後には、「積極財政」が市場に与える心理的・実体的影響が明確に表れています。
高市政権の掲げる「強い経済」は、財政拡大そのものではなく、「どこに・どのように使うか」が問われる段階に入りました。
財政と株価の相関を読み解くことは、今後の税制改革、企業経営、そして資産運用のすべてに共通するテーマとなるでしょう。
出典
・日本経済新聞「日経平均初の5万2000円台 高市相場、10月上げ最大」(2025年11月1日)
・財務省「令和7年度税制改正要望主要項目」
・東京証券取引所「投資部門別売買状況(2025年10月)」
・内閣府「経済財政運営の基本的方針2025(骨太方針)」
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
