暗号資産(仮想通貨)をめぐる環境が、個人投資から機関投資へと大きく変化しています。
ビットコインETFの登場を契機に、企業や年金基金が保有主体となりつつある今、税理士・会計士としても「会計処理」「税務申告」「開示対応」に関する実務理解が求められます。
本稿では、近年の制度動向を踏まえ、暗号資産に関する主要論点を整理します。
1. 会計上の位置づけ ― 「無形固定資産」としての扱い
日本基準では、暗号資産は「金銭の性質を有しない無形固定資産」として扱われます。
企業会計基準委員会(ASBJ)の「実務対応報告第38号(暗号資産の会計処理等)」において、保有目的に応じた区分が定められています。
(1)保有目的による分類
- 決済手段として保有する場合:流動資産に分類し、期末時価評価が必要
- 長期保有・投資目的の場合:無形固定資産に計上(時価が著しく下落した場合は減損)
- 取引業者などの販売目的保有:棚卸資産として評価替えを実施
(2)評価のポイント
期末時価が取得原価を下回る場合は減損処理が必要であり、上昇時の再評価は認められません。
IFRS(国際会計基準)でも同様に「無形資産」に区分されており、日本基準との整合性は保たれています。
2. 税務上の取扱い ― 個人と法人で異なる課税構造
(1)個人の場合
個人がビットコインなどを売却または他の暗号資産に交換した場合、その差益は雑所得に区分され、総合課税の対象となります。
損益通算や繰越控除は認められず、他の所得と合算されて累進税率が適用されます。
(2)法人の場合
法人が暗号資産を保有する場合は、期末時価評価による益金算入・損金算入が求められます。
会計上の評価差額が損益に反映されるため、法人税申告書上の調整は原則不要ですが、
期末評価を行わない場合や、仮想通貨デリバティブ(先物・オプション)を扱う場合には別途税務調整が発生します。
(3)消費税の取扱い
暗号資産の譲渡は、2017年の改正以降、非課税取引として扱われます。
ただし、マイニング報酬やNFT取引など、新しい形態の取引では課税関係が未整理の部分も多く、実務上は契約形態の分析が必要です。
3. 実務上のチェックポイント
① 評価単位の明確化
複数の取引所を利用する場合、どのウォレットを期末評価の対象とするかを明示し、取引履歴の記録方法を統一しておくことが重要です。
税務調査においては、出所不明の入出金履歴が問題となることが多いため、証拠書類の保存体制を整備しましょう。
② 為替換算と期末レート
円換算には、取引所公表レートや第三者提供レートを利用します。
通貨ごとに異なる場合があるため、評価基準日のレートを統一的に採用する社内ルールを設けておくと良いでしょう。
③ 内部統制・リスク管理
マルチシグウォレットやコールドウォレットの利用により、アクセス権限を明確化します。
特に上場企業や監査対象法人では、「暗号資産管理規程」や「保有ポリシー」の整備が求められます。
4. 国際会計基準との比較 ― IFRSの動向
IFRSでは、IAS第38号に基づき暗号資産を無形資産としつつも、2025年以降の公正価値評価の適用拡大が議論されています。
国際的な投資家保護の観点から、「時価会計」への移行が進めば、
日本企業もIFRS任意適用時に評価方法の見直しを迫られる可能性があります。
また、企業がビットコインを財務戦略の一環として保有するケース(例:マイクロストラテジー、メタプラネット)では、
株価と暗号資産価格が連動するため、開示リスクが大きく、注記情報の拡充が必要です。
結論
暗号資産の保有が一過性のブームではなく、企業財務・投資の新たな構成要素として定着しつつあります。
税理士・会計士は、「資産評価」「税務申告」「内部統制」「開示」の4分野を横断的に理解し、
今後の制度改正にも備える必要があります。
特に、ETFなどを通じた間接保有が増える中で、従来の取引所ベースの実務だけでなく、金融商品としての暗号資産を扱うスキルが求められる時代になっています。
出典
- 日本経済新聞「ビットコイン、崩れた経験則」(2025年10月31日)
- 企業会計基準委員会「実務対応報告第38号」
- 国税庁「暗号資産に関する税務上の取扱い(2025年版)」
- 金融庁「暗号資産交換業等に関する監督指針」
- IFRS Foundation, IAS38 “Intangible Assets”(改訂案 2025年草案)
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
 
  
  
  
  