子育て世帯の教育費負担を軽減する動きが加速しています。自民党、日本維新の会、公明党の3党は、高校生向けの奨学給付金の対象を中所得層まで拡大する方針で合意しました。給食費の無償化も進められ、教育無償化の総額は8000億〜9000億円規模に膨らむ見通しです。
教育支援が拡充する一方で、財源の恒久確保という根本課題が浮き彫りになっています。
奨学給付金の拡大と国負担への転換
奨学給付金は、授業料以外の費用(教科書代や修学旅行代など)を支援する制度で、これまで生活保護世帯や住民税非課税世帯が対象でした。今回の合意で「中所得層」にも対象を広げる方針が示され、支給額は私立高校生で最大年15万2000円に達します。
また、これまで地方自治体が3分の2を負担していた仕組みを見直し、今後は国が全額を負担する方針です。地方財政の負担軽減につながる一方で、国の予算規模は一段と拡大します。
小学校給食費の無償化も本格化
2026年度には小学校の給食費も原則無償化が予定されています。これまでに想定されていた必要額(2000〜3000億円)に加え、奨学給付金の拡大によって総事業費は8000億〜9000億円規模に上る見込みです。
教育費の支援対象が広がることは歓迎される一方で、政策目的が「教育機会の均等」から「家計支援」へと拡散しつつある点にも注意が必要です。
財源問題 ― 「税制による恒久財源確保」が焦点に
3党の合意文書では「税制による対応も含め恒久財源を確保することが不可欠」と明記されました。現時点で具体的な財源策は示されておらず、財務省も慎重な姿勢を崩していません。
教育支援の恒久化を進めるには、増税または他の歳出削減による財源確保が避けられず、今後の予算編成や税制改正議論に大きな影響を与えることになります。
政策の背景 ― 少数与党体制下での政治的合意
教育無償化は、維新が野党だった時期に自民・公明両党が歩み寄って成立した政策です。その後、公明党が連立を離脱し、自民・維新の新体制となったことで、予算審議を通じた政策連携がより重要になっています。
教育政策が政権運営の“接着剤”の役割を果たす一方、政策拡大のペースと財源の持続性のバランスが問われています。
FP・税理士の視点 ― 「教育支援」と「将来負担」の両面を見る
教育費負担の軽減は、家計にとって大きな支援になります。しかし、支出拡大の裏側では、将来世代への財政負担や税制見直しのリスクも存在します。
FPや税理士としては、制度拡充の恩恵だけでなく、その財源がどのように確保されるかを注視し、長期的な家計・税制への影響を見通す視点が求められます。
教育費対策は「無償化に頼る」だけでなく、奨学金・学資保険・NISA・貯蓄などの自助努力と組み合わせることで、より安定した教育資金設計が可能になります。
結論
教育無償化の流れは、子育て支援と教育格差是正を進める重要な一歩です。ただし、政策の持続性を確保するには、国民全体で「何を優先し、どのように負担を分かち合うのか」という合意形成が欠かせません。
教育の無償化が「一時的な政治合意」に終わるのか、それとも「次世代を支える恒久制度」になるのか。今後の財源議論が、教育政策の信頼性を左右することになりそうです。
出典
・日本経済新聞「教育無償化に8000億円超も 自維公、対象拡大で合意」(2025年10月31日付)
・文部科学省「高校生等奨学給付金制度概要」
・総務省「子どもの貧困対策に関する現状」
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
