高齢者の「3割負担」見直し議論 ― 公平性と世代間バランスをどう取るか

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厚生労働省が、高齢者の医療費における「3割負担」の対象拡大に向けた検討を再開しました。社会保障審議会での議論が始まり、所得の高い高齢者にも応分の負担を求める動きが浮上しています。少子高齢化が進む中で、医療費の公平性や現役世代の負担軽減をどう両立させるか――その議論は社会全体の持続性に直結するテーマです。

1.高齢者医療費の膨張と「仕送り構造」

後期高齢者医療制度では、75歳以上の方の医療費のうち窓口負担を除いた約18.7兆円(2025年度予算ベース)が給付費として計上されています。その財源の内訳は、4割が現役世代の保険料による支援金(仕送り)、5割が国と自治体の公費、残りが高齢者自身の保険料です。
団塊の世代がすべて後期高齢者に達したことで、支援金は10年前より3割増の7.5兆円超に拡大する見通しです。この仕送り構造の持続可能性が、医療制度の最大の課題となっています。

2.「3割負担」拡大の検討内容

現在、75歳以上の自己負担割合は原則1割で、所得に応じて2割または3割に引き上げられます。課税所得145万円以上などの条件を満たす「現役並み所得者」は3割負担となり、2023年度時点でおよそ142万人(75歳以上の約7%)が該当しています。
今回の見直しでは、この3割負担の対象を70~74歳にも広げる案
などが検討対象にあがっています。所得に応じて年齢に関係なく一定の自己負担を求めることで、制度全体の公平性を高めようとする狙いです。

3.逆転しかねない“負担増”の仕組み

しかし、単純に3割負担を拡大すれば、現役世代の保険料負担がむしろ増える可能性があります。
理由は、3割負担の人の給付費には国や自治体の公費が投入されていないためです。現行制度では、1~2割負担の人の給付費に公費が入りますが、3割負担の人の分は高齢者保険料と現役世代の支援金(仕送り)でまかなわれます。
つまり、3割負担の高齢者が増えると、仕送り額がさらに膨らみ、現役世代の保険料が上がるという「逆転現象」が起きるのです。

4.過去に見送られた経緯と再燃する議論

この問題は新しい論点ではありません。2022年の厚労省専門部会でも同様の議論がなされ、「現役世代の負担増につながる」として見送りになった経緯があります。
それでも今回、議論が再燃した背景には、少子化対策の財源確保や社会保障費の膨張があります。政府は2023年末の改革メニューで「70~74歳も含めた3割負担の基準見直しを2028年度までに検討」と明記しており、年齢や世代による線引きを改めて問い直す動きが加速しています。

5.求められる「制度の総合設計」

大企業健保で構成される健康保険組合連合会は、現役並み所得者の対象拡大に加え、3割負担者の給付にも一定の公費を投入すべきだと提言しました。
一方で、公費の恒久的な拡大は財政上のハードルが高く、厚労省内では「2割負担者の減少分で浮く国費を一時的に回せないか」という暫定案も出ています。
さらに、自民党と日本維新の会の連立合意書では、「現役世代の保険料軽減を25年度中に実現」として、薬の保険適用範囲や金融所得への保険料反映なども含めた制度横断的な見直しを打ち出しています。


結論

高齢者の3割負担拡大は、単なる「高齢者負担増」の問題ではありません。
世代間のバランス、公費の使い方、医療制度全体の持続性――これらを一体的に見直す必要があります。所得のある高齢者には一定の自己負担を求める一方で、現役世代の「仕送り負担」が際限なく増える仕組みを放置すれば、本来の目的は達成されません。
公平性と持続性の両立。その設計力こそ、これからの社会保障改革の試金石となるでしょう。


出典

  • 日本経済新聞「高齢者『3割負担』検討再開 厚労省、医療費対象拡大巡り」(2025年10月30日)
  • 厚生労働省「社会保障審議会 医療保険部会」議事録・関連資料
  • 健康保険組合連合会「医療制度改革に関する提言」(2025年9月)

という事で、今回は以上とさせていただきます。

次回以降も、よろしくお願いします。

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