第4回:退職金・企業年金・iDeCoをどう併用するか ― 老後資金戦略の最適設計

FP
緑 赤 セミナー ブログアイキャッチ - 1

「退職金があるから老後は安心」と言われた時代は終わりました。
現在は、企業型確定拠出年金(DC)やiDeCo(個人型DC)、さらには企業年金基金や中小企業退職金共済など、複数の制度を組み合わせて老後資金をつくる時代です。

しかし、制度が複雑なうえ、転職や勤務先の制度変更によって「自分がどの制度に入っているのか分からない」という人も少なくありません。
今回は、退職金・企業年金・iDeCoをどう活用し、重複や漏れのない“最適な老後資金戦略”を設計するかを解説します。

■ 1. 老後資金の“3階建て構造”を理解する

日本の年金制度は大きく3つの層に分かれています。

階層制度担い手主な対象
1階公的年金(国民年金・厚生年金)全国民
2階企業年金・退職金勤務先会社員・公務員
3階iDeCo・NISAなど個人自助努力層

つまり、退職金や企業年金は「2階」、iDeCoは「3階」にあたります。
公的年金だけでは老後生活費の6~7割をまかなうのが限界とされるため、2階+3階をどう組み合わせるかがポイントになります。


■ 2. 企業年金・退職金の仕組みと違い

勤務先によって導入されている制度は異なります。主なタイプを整理すると次の通りです。

制度名掛金の拠出者運用主体将来の給付の仕方
退職一時金企業企業退職時に一括支給
確定給付企業年金(DB)企業企業(予定利率で管理)退職時または年金形式で給付
確定拠出年金(DC)企業・従業員加入者本人運用結果で給付額が変動
中小企業退職金共済(中退共)企業中退共退職時に一括支給

このうち、企業型DCを導入している企業が近年増加しています。
DCの場合、将来の年金額は「運用成果次第」となるため、iDeCoとの親和性が高いという特徴があります。


■ 3. iDeCoと退職金の併用戦略

退職金とiDeCoの両方を活用すると、老後資金の多様化と税制メリットの両方を享受できます。

iDeCoの税制メリット

  • 掛金全額が所得控除(年末調整または確定申告で控除可能)
  • 運用益が非課税
  • 受取時も退職所得控除・公的年金等控除の対象

つまり、積立時・運用時・受取時のすべてで税優遇を受けられる「三重のメリット」があります。

退職金とiDeCoを併用する場合、受取時期をずらすことで退職所得控除枠の重複を防ぐことも可能です。
たとえば、退職金を受け取る年とiDeCoを受け取る年をずらせば、課税所得を抑えられます。


■ 4. 転職をまたぐ場合の最適ルート

転職先で企業型DCが導入されていない場合、前職のDC資産をiDeCoに移換して運用を続けるのが基本です。
一方、転職先に企業型DCがある場合は、その制度へ移換する選択肢もあります。

【判断の目安】

  • 転職先にDC制度が「ない」 → iDeCoに移換して継続運用
  • 転職先にDC制度が「ある」 → 新制度に移換して一元管理

さらに、転職先の制度が「マッチング拠出あり」の場合は、個人のiDeCo拠出が制限されるため注意が必要です。


■ 5. iDeCo+NISAのダブル活用

老後資金戦略をより強化するためには、iDeCo(年金)+新NISA(流動資産)の組み合わせが有効です。

項目iDeCo新NISA
主目的老後資金の積立生涯投資・資産形成
税制メリット所得控除+運用益非課税運用益非課税
引き出し原則60歳まで不可いつでも可能
向いている人安定的に積立できる人柔軟に資産を使いたい人

この2つを「時間軸」で使い分けるのがコツです。

  • 60歳以降に使うお金 → iDeCoで積み立て
  • 途中で使う可能性のあるお金 → NISAで運用

両者を並行して運用すれば、「長期×非課税×目的別」という三拍子が揃います。


結論

退職金・企業年金・iDeCoは、いずれも老後資金の重要な柱です。
それぞれの制度の特徴を理解し、転職やライフイベントのたびに資産を整理・見直すことが、将来の安心につながります。

特にiDeCoは、個人が“自分で設計できる年金”です。
企業に依存しない資産形成の軸を持つことで、働き方が変わっても「年金の軸」はぶれません。
これこそが、人生100年時代における“自立した老後戦略”の第一歩です。


出典

  • 日本経済新聞「確定拠出年金『放置』3300億円」(2025年10月28日付)
  • 金融庁「iDeCoナビ」
  • 厚生労働省「企業年金制度の現状と課題」
  • 国税庁「退職所得控除額の計算方法」

という事で、今回は以上とさせていただきます。

次回以降も、よろしくお願いします。

タイトルとURLをコピーしました