「逆張りの敗北」― 空売り投資家が苦しむ米国株の熱狂相場

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第1章 「下げに賭ける」投資家たちの逆風

2025年の米国株市場は、空売り投資家にとって試練の年となっている。
米調査会社S3パートナーズによると、空売り比率の高い250銘柄で構成する「空売り人気バスケット」は年初来57%の上昇。株価下落に賭けていた投資家たちは、過去5年で最悪のリターンを記録した。

空売りとは、株を借りて先に売り、後で買い戻すことで値下がり益を狙う手法だ。
だが、2025年の米株市場ではAI関連やデータセンター関連、暗号資産関連といった「人気テーマ株」が急騰。株価が下がるどころか上昇を続けたため、空売り投資家は次々とポジションを解消せざるを得なかった。

特に、AI広告企業アップラビンは「AI能力の誇張」と批判されたにもかかわらず株価が60%上昇
批判レポートを出した空売り勢が撤退するほどの勢いを見せた。
市場の熱狂が、従来の分析や常識を凌駕しているのが現状だ。


第2章 個人投資家とインデックス資金が変えた相場構造

この空売り敗北の背景には、2つの大きな潮流がある。

1️⃣ 個人投資家の急増とリスク選好
コロナ禍以降、SNSやスマホアプリ経由で株取引を行う個人投資家が急増。
米国では「ミーム株」現象に見られるように、群衆心理が株価を押し上げる場面が増えている。
2025年もその勢いは健在で、「上がる株に乗る」姿勢が空売り勢を圧倒している。

2️⃣ インデックス投資ファンドの拡大
S&P500に連動するETFや投信への資金流入が続き、市場全体を押し上げている。
銘柄の実力に関係なく、指数に組み込まれているだけで株価が上がる構造が生まれており、企業のファンダメンタル分析に基づく空売り戦略が通用しにくくなっている。

有名な空売り投資家であるマディー・ウォーターズ創業者カーソン・ブロック氏も「上昇局面が長く、調整が短いため空売りが成立しにくい」と語る。
つまり、市場が「永遠の上昇」を前提に動いているのだ。


第3章 家計投資への示唆 ― 「熱狂に乗るか、距離を置くか」

この「空売り投資家の敗北」は、個人投資家にとっても無関係ではない。
むしろ次のような3つの視点で、自分の投資を見直すヒントになる。

💡① 上昇トレンドに「乗る勇気」と「降りる冷静さ」

短期的な相場熱に乗ることは悪ではない。ただし、上昇局面が続くほど出口戦略が重要になる。
たとえば新NISAでAI・半導体・データセンター関連などのテーマ株を保有する場合、一部売却やリバランスのタイミングをあらかじめ決めておくと良い。

💡② 分散投資の重要性

2025年の空売り勢が痛感したように、どんなに確信があっても「想定外」は起こる。
米国株だけでなく、円建ての債券や日本株、金ETFなど複数資産に分散することで、相場の偏りに耐えられるポートフォリオを構築できる。

💡③ 情報過多の時代は「冷静さ」が最大の武器

SNSやAIニュースアプリで「次に来る株」が次々と紹介される時代。
しかし、投資の本質は「自分が理解できるものに投資する」こと。
話題性やトレンドに飛びつく前に、企業の実態・財務内容・将来性を確認しよう。


結び ― 「理性」と「熱狂」のはざまで

空売り投資家の苦境は、裏を返せば投資家心理が極端に楽観に傾いているサインでもある。
ブロック氏やスティーブンソン・ヤン氏のような「市場の懐疑派」が退場するほどの熱狂相場は、歴史的にも長く続かないことが多い。

今はまだ「強気の波」に逆らう必要はない。
だが、いずれ来る調整局面に備えて、熱狂と理性のバランスを取ることこそ、個人投資家に求められる戦略だろう。


出典:2025年10月24日 日本経済新聞朝刊「空売り投資家、苦境続く」ほかを参考に筆者作成。


という事で、今回は以上とさせていただきます。

次回以降も、よろしくお願いします。

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