激動の世界経済、再び「対話」が問われるとき― 日経×FT「The Great Dialogue」から見える希望と課題 ―

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2025年10月22日、日本経済新聞社と英フィナンシャル・タイムズ(FT)が共催するシンポジウム「The Great Dialogue」が都内で開かれた。
テーマは「分断の時代をどう乗り越えるか」。登壇したのは、黒田東彦・前日銀総裁とFTのマーティン・ウルフ氏。国際金融の第一人者が、米中対立やAIの進化、気候変動など、世界経済が抱える“構造的なゆがみ”を語り合った。


◆ 米国が築いた「秩序」の揺らぎ

「米国が第2次大戦後につくった秩序は変化の途上にある」。
ウルフ氏のこの言葉に象徴されるように、今の世界は80年続いた安定構造が大きく揺らいでいる。

米国はかつて、安全保障と国際金融システムの“提供者”として機能していた。しかし、関税政策や紛争対応で自ら秩序を壊す側に回りつつある。黒田氏は「世界経済の秩序を米国自身が破壊している」と指摘し、途上国やグローバルサウスを含めた新たな協調の必要性を訴えた。


◆ 金利・財政・AI ― 三つの試練

世界的な金利上昇について問われると、ウルフ氏は「歴史的にはまだ低水準だ」と冷静に分析した。
アジアの成長やAI投資による資本需要の高まりで、金利の上昇が続く可能性もあるという。一方で、黒田氏は「実質金利はいまだマイナス」とし、高市政権の財政出動が景気下支えに寄与する余地を指摘した。

財政政策に関しても両者の見解は一致する。黒田氏は「ばらまきよりも大学・研究支援を強化すべき」と語り、ウルフ氏も「民間投資が黒字の国では、財政赤字が必要悪となる」と述べた。
日本の財政赤字は大きいが、黒田氏は「潤沢な貯蓄が国債を支えている」として、悲観一色ではない見方を示した。


◆ AIは「創造」と「破壊」の両刃

AI(人工知能)の進展は、両者にとっても最も注目すべきテーマだった。
黒田氏は「多くの仕事がAIに置き換えられるが、AIが適切な金融政策を設計できるわけではない」と慎重な姿勢を見せる。
一方ウルフ氏は「AIは史上最大の技術革新だが、経済と政治の“破壊”にもなり得る」と述べた。生産性向上の裏で、これまで守られてきた職が消え、社会の安定を揺るがす可能性があるという。

AIが新しい「資本」となる時代、人間の役割はどこに残るのか。両者は共通して「教育と再分配の再設計」が急務だと強調した。


◆ 日本に求められる「知」と「開かれた投資」

最後に黒田氏は、日本の成長戦略として「外国直接投資(FDI)」の重要性を説いた。
「FDIは資金だけでなく、技術や経営手法、新しい働き方をもたらす」。
国内に閉じた構造を超え、海外からの知と人材をどう受け入れるか――。それが次の日本経済の分岐点になる。


◆ 「対話」こそが秩序を取り戻す力

分断、AI、財政、気候変動。
どれも一国で解ける問題ではない。だが、今回のシンポジウムのタイトルが示すように、「対話(Dialogue)」こそが唯一の突破口だ。
ウルフ氏は「秩序の提供をどこまで合意できるかを考える必要がある」と語り、黒田氏も「希望を持って解決に挑む」と締めくくった。

国境を超えて知を交わし、合意を探る努力。それは、混迷する世界の中で、日本が果たすべき役割そのものではないだろうか。


📘出典
日本経済新聞 2025年10月23日朝刊
「激動の世界経済 どう対峙 日経・FT10周年シンポ『The Great Dialogue』」


という事で、今回は以上とさせていただきます。

次回以降も、よろしくお願いします。

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