第1章 銀行に仮想通貨が解禁される日
金融庁は、銀行グループ傘下の会社が仮想通貨(暗号資産)取引を手掛けることを認める方向で検討を始めました。
これまで銀行法の施行規則では、銀行グループの子会社が仮想通貨交換業者として登録することは禁じられており、
SBIや楽天など証券会社グループが主なプレーヤーでした。
今回の改正により、三菱UFJ・三井住友・みずほなどの銀行系証券会社も仮想通貨を扱える可能性が出てきます。
背景には、国内788万口座まで拡大した仮想通貨市場と、
海外で進む「銀行によるデジタル資産取引サービス」の流れがあります。
同時に、銀行本体の仮想通貨保有も解禁される方向で議論が進行中です。
金融庁は監督指針を改正し、仮想通貨を「国債・株式と並ぶ投資資産」として位置づける見通し。
一方で、預金者保護と健全経営を担保する仕組みも求められます。
第2章 銀行参入で変わるリスク・法務・税務の構造
銀行が仮想通貨市場に参入することで、金融秩序は大きく変わります。
ただし、リスク管理・法務・税務の観点からは新たな論点も浮上しています。
■ 財務健全性とリスク管理
仮想通貨は価格変動が激しく、保有量が増えれば自己資本比率への影響が避けられません。
時価評価による損益変動をどう吸収するか――銀行のリスク管理体制が問われます。
■ 法務面の整理
- 銀行法施行規則:子会社の業務範囲に「仮想通貨交換業」を追加予定
- 資金決済法:暗号資産・ステーブルコインの登録要件を再設計
- 金商法:デリバティブや集団投資スキームとの区別が焦点
■ 税務上の位置づけ
銀行の保有分は時価評価差益の課税対象となる見込み。
また、個人投資家の取引は現行通り「雑所得(総合課税)」扱いですが、
今後「金融所得課税の一体化」で20.315%の分離課税化が議論される可能性もあります。
第3章 ステーブルコインとCBDC ― 二重構造の通貨システム
民間が発行するステーブルコインと、中央銀行が発行を検討するCBDC(中央銀行デジタル通貨)。
この二つは似て非なるものですが、共に「デジタル時代の通貨基盤」を担います。
■ ステーブルコインの特徴
円やドルなどの法定通貨と価値を連動させ、裏付け資産(預金・国債)で価格を維持。
瞬時の送金・国際決済が可能で、銀行預金の一部を代替する潜在力を持ちます。
日銀の氷見野副総裁も「ステーブルコインは国際決済の主要プレーヤーになり得る」と発言。
■ CBDCの特徴
中央銀行が直接発行する“デジタル現金”。
信頼性と法的裏付けがあり、最終清算通貨としての役割を持ちます。
欧州中央銀行は「個人保有上限3,000ユーロ」で流出リスクを抑える制度設計を検討。
日本銀行も実証段階を進めており、民間通貨との共存がテーマです。
■ 並存のかたち
CBDCが「基盤」、ステーブルコインが「実装」という二層構造モデルが有力です。
すなわち、中央が安全性を保証し、民間が利便性を担う。
これが“日本型デジタル通貨システム”の方向性です。
第4章 実務対応編 ― 会計・税務・監査の新常識
デジタル通貨の導入は、企業の会計・税務・監査に直接影響します。
■ 会計処理
ステーブルコインは裏付け資産の構成により区分が変わります。
| ケース | 会計区分 | 備考 |
|---|---|---|
| 銀行預金100%型 | 現金預金 | 換金性が高く価格変動リスク小 |
| 国債・CP混在型 | 金融資産 | 時価評価または取得原価法 |
| 暗号資産型 | デジタル資産 | 時価評価差損益を計上 |
CBDCは原則「現金預金」として処理されます。
■ 税務処理
- 法人:ステーブルコインの性質に応じて評価課税を判定
- 個人:暗号資産同様に雑所得課税(将来的に分離課税化の議論あり)
- 消費税:支払手段としての性格が強ければ非課税扱い
■ 監査・内部統制
- ウォレット管理・アクセス権限の分離
- ブロックチェーン上の残高確認手続
- 外部API・価格データの検証プロセス
「デジタル資産の三者確認(発行体・預託先・利用者)」という新しい監査枠組みが求められます。
第5章 “お金の未来”をめぐる攻防 ― 銀行・フィンテック・中央銀行の戦略地図
デジタル通貨の覇権をめぐり、
銀行・フィンテック企業・中央銀行の三者がそれぞれの戦略を描いています。
| 主体 | 狙い | 戦略 |
|---|---|---|
| 銀行 | 預金・信頼の再構築 | ステーブルコイン発行、デジタル資産管理業へ転換 |
| フィンテック | 決済効率とUX | ブロックチェーン決済、リアルタイム送金 |
| 中央銀行 | 通貨主権・金融安定 | CBDC発行による公的基盤整備 |
海外では、
- 米国:民間主導+法整備(ジーニアス法)
- 欧州:ECB主導のデジタルユーロ
- 中国:デジタル人民元の実運用化
といった多様なモデルが進行中。
日本の「共存型モデル」は、調和と透明性を重んじる第三の道として国際的にも注目されています。
終章 “お金の定義”が変わるとき
ステーブルコイン、CBDC、仮想通貨――
これらの制度改革は、単なる技術革新ではなく、通貨そのものの再定義です。
「お金とは、価値を移す仕組みであり、社会の信頼を映す鏡である。」
紙幣からデータへ。
現金からコードへ。
お金が「見えなくなる」時代にこそ、
それを扱う人間の理解と倫理が問われます。
税理士・FP・会計人は、数字を扱う専門家から、
“お金の仕組みを設計する専門家”へと役割を拡張する時代を迎えています。
出典・参考資料
- 「仮想通貨、銀行系に解禁」日本経済新聞(2025年10月22日)
- 「ステーブルコイン『銀行預金を一部代替も』」日本経済新聞(2025年10月22日)
- 金融庁「金融審議会 作業部会資料」
- 日本銀行「CBDCパイロット実証報告書」
- 日本暗号資産取引業協会(JVCEA)統計資料
- 欧州中央銀行(ECB)デジタルユーロ構想
- 米国「ジーニアス法(Stablecoin Regulation Act)」関連文書
📘シリーズ一覧
1️⃣ 銀行に仮想通貨解禁 ― 新時代の資金運用構造
2️⃣ 銀行の仮想通貨参入 ― 税・法務・リスク管理
3️⃣ ステーブルコインとCBDCの共存戦略
4️⃣ 実務対応編 ― 会計・税務・監査の新常識
5️⃣ “お金の未来”をめぐる攻防 ― 銀行・フィンテック・中央銀行の戦略地図(本稿)
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
