2025年、日本企業の約300社がIFRS(国際会計基準)を採用し、時価総額では市場の半分を超える時代に入りました。
一方で、依然として多くの企業が日本基準(J-GAAP)を使っています。
ではこの2つの会計基準、何がどう違うのでしょうか?
🔹 図表① IFRSと日本基準の位置づけ
| 項目 | IFRS(国際会計基準) | 日本基準(J-GAAP) |
|---|---|---|
| 制定主体 | 国際会計基準審議会(IASB:英国) | 企業会計基準委員会(ASBJ:日本) |
| 採用国 | 世界140カ国以上 | 日本国内中心 |
| 目的 | 国際的な比較可能性の確保 | 日本経済・法制度に即した会計 |
| 採用方法 | 任意適用(上場・非上場問わず) | 原則として国内企業が採用 |
| 財務諸表の利用者 | グローバル投資家・機関投資家 | 主に国内投資家・税務当局 |
👉 ポイント:
IFRSは「世界の共通言語」、日本基準は「国内ルールブック」。
どちらが“優れている”というより、どこに軸足を置くかの違いです。
🔹 図表② 主要な会計処理の違い
| テーマ | IFRS(国際会計基準) | 日本基準(J-GAAP) | 影響 |
|---|---|---|---|
| のれん(Goodwill) | 償却しない(減損があるときだけ処理) | 毎期定額で償却(最長20年) | IFRSは利益を押し上げやすい |
| 開発費 | 将来の経済価値が見込めれば資産計上可 | 原則として費用処理 | 技術系企業の利益に影響 |
| 棚卸資産の評価方法 | LIFO(後入先出法)は不可 | LIFOも認められる | 物価上昇時の利益額が変化 |
| 収益認識 | 契約ベースで「いつ、どの成果を提供したか」を判断 | 従来の“請求・検収基準”重視 | 契約の分割や期間按分に影響 |
| 金融商品の評価 | 公正価値(時価)を重視 | 取得原価主義を併用 | 時価変動が損益に反映しやすい |
| リース取引 | 原則すべてオンバランス(資産計上) | オペレーティング・リースはオフバランスも可 | 負債比率に影響大 |
👉 まとめると:
IFRSは「時価ベース・投資家視点」、
日本基準は「保守主義・法令順守視点」という違いがあります。
🔹 図表③ 導入によるメリットとデメリット
| 観点 | IFRS採用のメリット | IFRS導入の課題(デメリット) |
|---|---|---|
| 投資家向け | 世界の企業と比較可能、海外投資家に説明しやすい | 会計方針が複雑化、説明責任が重くなる |
| 経営面 | グローバル子会社の決算を統一可能 | システム対応・人材育成コスト |
| 財務面 | 利益の平準化がしやすい | 「のれん」減損の判断に経営裁量が入りやすい |
| 社内意識 | 透明性・説明責任の向上 | IFRS理解者が限られる中間層の混乱 |
🔹 図表④ 日本企業の採用動向(2025年9月時点)
| 区分 | 社数 | 備考 |
|---|---|---|
| 任意適用済み | 約230社 | トヨタ、ソニー、ソフトバンクGなど |
| 適用決定済み | 約70社 | 順次IFRSに移行中 |
| 検討中 | 約100社以上 | 任天堂などが公表 |
| 合計 | 約300社(適用決定まで) | 市場時価総額の約50% |
※出典:日本経済新聞 2025年10月20日朝刊「IFRSに染まる株式市場」より再構成
🔹 IFRS導入は「経営の見せ方」改革
IFRSの本質は、投資家との対話をグローバル水準に合わせることです。
つまり、会計のルールを変えることではなく、経営の見せ方・説明の仕方を変えること。
企業がどのように利益を稼ぎ、どんなリスクを抱えているか。
IFRSは、それを“世界共通の言葉”で表現するための道具です。
🔹 今後の展望:プライム市場で義務化も視野
東証プライム上場企業の大半がIFRSを導入すれば、
「プライムではIFRSを標準化すべきだ」という議論が加速するのは必然です。
一方で、IFRSへの完全移行には中堅企業・会計人材への支援が不可欠。
今後は「二つの会計文化の共存」をどうマネージするかが問われます。
✏️ まとめ
- IFRSは“世界の共通会計言語”、日本基準は“国内ルール”。
- IFRSは比較可能性と透明性を重視、日本基準は安定性と法令順守を重視。
- のれん、開発費、リースなど主要論点で大きな違いがある。
- IFRS採用企業は2025年9月時点で約300社・市場の半分。
会計基準の違いは、単なる数字の計算方法ではなく、
企業が自らをどう見せ、世界とどう向き合うかを映す鏡です。
📘出典・参考
2025年10月21日 日本経済新聞朝刊「IFRSに染まる株式市場」
企業会計基準委員会(ASBJ)「IFRS適用会社リスト」
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
