給付付き税額控除② FP・税理士が読み解く「制度設計の壁」――支援の線引きと財源のリアル

政策

前回は、給付付き税額控除とは何か、その目的と背景を紹介しました。
今回はもう少し踏み込んで、「どこまで支援するのか」「どうやって実施するのか」といった制度設計の課題を、FP・税理士の視点も交えて解説します。


◆ そもそも、誰に・どこまで支援するのか

給付付き税額控除は「低所得者支援」と「中間層支援」を両立させる狙いがあります。
けれども、ここで立ちはだかるのが「線引き」の問題です。

  • どこからが“支援が必要な層”なのか
  • 世帯単位で見るのか、個人単位で見るのか
  • 子育て世帯を優遇するのか、単身者も含めるのか

たとえば、世帯年収400万円前後の層を厚く支援する方針が浮かび上がっていますが、実際の家庭状況は多様です。
共働きかどうか、子どもの有無、住宅ローンや医療費の負担などで可処分所得は大きく異なります。

FPとして家計相談を受けると、「数字上は同じ年収でも、生活の余裕度がまったく違う」ことを痛感します。
制度設計では、単純な年収だけでなく「家計の実態に近い基準づくり」が求められます。


◆ 所得の把握と支給の仕組み ― 技術的な壁

もう一つの難題は、「所得をどう正確に把握するか」です。
現行の仕組みでは、所得情報は年末調整・確定申告・住民税課税などに分散しています。
世帯単位で合算するには、マイナンバーとの連携強化が不可欠です。

しかし、マイナンバーによる情報一元化には時間がかかり、セキュリティ面の懸念も根強い。
結果として、制度導入までに数年単位の準備期間が必要になる可能性もあります。

また、支給の方式も課題です。
「税額控除」で減税するだけでは低所得層に恩恵が届かないため、確定申告や年末調整の時期に給付をセットで実施することが検討されています。
この際、税務署・自治体・金融機関の連携が不可欠になります。


◆ 財源の現実 ― 社会保険料との関係

どんなに理想的な制度も、財源がなければ絵に描いた餅です。
財源としては主に次の3つの方向性が考えられています。

  1. 社会保険料の見直し
    高所得層の保険料上限を見直すことで再分配を強化する案。
    ただし「負担増への反発」が強く、政治的ハードルは高い。
  2. 消費税収の活用
    給付付き税額控除は「消費税の逆進性」を緩和する目的とも整合的。
    ただし「消費税を上げて給付する」構造には国民の理解が不可欠。
  3. 歳出削減とのセット
    他の給付金や補助金を整理し、重複支援を減らして一本化する案も。
    行政の効率化が伴えば、長期的には財政の安定にも寄与します。

FP・税理士としては、「制度を支える財源構造」こそが将来の税制・社会保障の方向性を示すと考えます。
単なる景気対策ではなく、持続的な所得再分配の仕組みをどう作るかが焦点です。


◆ 給付付き税額控除がもたらす“再分配の再設計”

給付付き税額控除は、「働く世代の再分配強化」という新しいアプローチです。
従来の社会保障は「高齢者中心」「年金・医療重視」でしたが、今後は「子育て・現役層支援」が主軸になっていくでしょう。

この制度が本格導入されれば、

  • 所得税・住民税の仕組み
  • 社会保険料の負担構造
  • 現金給付制度(子育て給付金・低所得者支援金)

など、幅広い分野の見直しが連動します。
つまり、税と社会保障の一体改革の“第2幕”が始まる可能性があるのです。


◆ おわりに ― 家計と社会をつなぐ制度に

給付付き税額控除の議論は、単なる税制技術論ではなく、「どんな社会を目指すか」という価値観の選択です。
支援の線引きを誤れば、分断を深める危険もあります。
一方で、的確に設計できれば、中間層の安心と活力を取り戻す転機になるでしょう。

FP・税理士の立場からは、制度設計の議論を「家計の現実」に結びつけ、生活者目線での意見発信が欠かせません。
給付付き税額控除は、まさに「社会を支える仕組みをどう作るか」という問いを突きつけています。


出典・参考
日本経済新聞(2025年10月21日付)「給付付き控除、恩恵は誰に」
日本総合研究所・翁百合「税・社会保険料負担率の国際比較」
一橋大学・小塩隆士「所得分布の変化と再分配効果」


という事で、今回は以上とさせていただきます。

次回以降も、よろしくお願いします。

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