💬 「壁を越えると損をする」は本当?
「103万円を超えると損する」
「130万円を超えたら手取りが減る」
――こうした“年収の壁”の話を耳にしたことがある人は多いでしょう。
でも実際のところ、壁を越えたからといって必ず手取りが減るわけではありません。
むしろ、制度の仕組みを理解して働けば、
年収アップ=手取り増につなげることも可能です。
📊 図表:主な壁を越えたときの手取りの目安(2025年版)
| 年収 | 所得税 | 住民税 | 社会保険料 | 手取りの目安(概算) | 備考 |
|---|---|---|---|---|---|
| 100万円 | 0円 | 0円 | 0円 | 約100万円 | 非課税・扶養内 |
| 110万円 | 0円 | 数千円 | 0円 | 約109万円 | 住民税課税開始(非課税世帯ライン) |
| 123万円 | 0円 | 数千円 | 0円 | 約121万円 | 配偶者控除の上限付近 |
| 160万円 | 数千円 | 約3万円 | 0円 | 約155万円 | 所得税発生(本人課税ライン) |
| 170万円 | 約1万円 | 約4万円 | 0円 | 約165万円 | 配偶者特別控除の範囲内 |
| 180万円 | 約2万円 | 約5万円 | 約15万円 | 約158万円 | 社会保険加入(106万円・130万円壁通過後) |
| 200万円 | 約3万円 | 約7万円 | 約18万円 | 約172万円 | 扶養外・社会保険完全加入 |
(注)概算:給与所得者・扶養家族なし、標準的な住民税率10%・社会保険料率15%で試算。
🧩 「壁」を越えるときの3つの変化ポイント
① 税金(所得税・住民税)
- 所得税は160万円超から発生しますが、税率は5%程度。
- 住民税は110万円超で課税開始。
→ どちらも「急激に手取りが減る」ほどのインパクトではありません。
② 社会保険
- 年収106万円(大企業)または130万円(中小)を超えると、
健康保険・厚生年金への加入が必要。 - ただし、将来の年金受給額が増えるメリットもあり、
長期的には“損”ではなく“貯蓄の一部先取り”のような性格です。
③ 扶養控除・配偶者控除
- 扶養される側が働きすぎると、世帯主(夫など)の控除が減少します。
- とはいえ、160万円以内なら配偶者特別控除の満額38万円が使えます。
→ 夫婦トータルで見れば、実はそれほど手取り差は生じません。
💡 ケーススタディ:「妻がパートで働く」場合
ケースA:年収130万円で扶養内
- 夫の控除:配偶者特別控除あり
- 妻の社会保険:扶養のまま(自己負担なし)
- 手取り:130万円(税・社会保険ほぼゼロ)
ケースB:年収180万円で社会保険加入
- 夫の控除:配偶者特別控除の一部適用
- 妻の社会保険:自分で負担(約15万円)
- 手取り:158万円(加入による減少あり)
💬一見「130万円より手取りが減った」と感じますが、
将来の年金増や医療保険の保障を考えると、トータルでマイナスではありません。
📈 “損をしない働き方”のポイント
- 勤務先の規模を確認する
→ 106万円の壁があるのか、130万円なのかを把握。 - 一時的な収入増は「事業主証明書」で対応
→ 扶養の継続を申請できる特例あり。 - 160万円以内なら税負担は軽微
→ 税金よりも「社会保険加入ライン」を重視するのが実務的。 - 将来の年金・医療保障も踏まえた選択を
→ 短期の手取りだけで判断しない。
🧭 まとめ:「“壁”を怖がらず、制度を味方に」
「年収の壁」という言葉が一人歩きしていますが、
本来の目的は、公平で持続可能な働き方を支える仕組みをつくることにあります。
壁を意識するよりも、
- 自分や家族の働き方
- 将来の生活設計
- 税・社会保険・扶養のバランス
を総合的に見て判断することが大切です。
🗒️ 出典:企業実務2025年7月号 特別記事
「徹底解説!『新・年収の壁』を攻略する」澁谷典彦税理士事務所 澁谷典彦 氏
🧾 シリーズまとめ
| 回 | タイトル | 主なテーマ |
|---|---|---|
| 第1回 | 103万円→160万円に!新・年収の壁の全体像 | 所得税・基礎控除改正 |
| 第2回 | 配偶者控除・扶養控除・特定親族特別控除をわかりやすく | 家族の控除の新基準 |
| 第3回 | 住民税と社会保険の壁 ― 実務で気をつけたいポイント | 110万・106万・130万円ライン |
| 第4回 | “壁”を越えたらどうなる?年収アップ後の手取りシミュレーション | 実践的働き方戦略 |
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。

