2025年の税制改正では、「103万円の壁」や「基礎控除の見直し」と並んで注目されるのが、
新たに創設される「特定親族特別控除」です。
これは、大学生など19歳以上23歳未満の子どもを扶養している家庭にとって、
「アルバイトでたくさん働いても扶養から外れにくくなる」ようにするための新しい仕組みです。
🎓 背景 ― “103万円の壁”が進学世帯の負担に
これまで、大学生のアルバイト収入が年間103万円を超えると、
親の「特定扶養控除」(控除額63万円)が使えなくなっていました。
そのため、親の税負担が増えるのを避けようと、
「子どもにシフトを抑えてもらう」「年末に働けなくなる」というケースが多く、
学生本人の就業機会を制限する要因にもなっていたのです。
一方で、物価高や授業料の上昇で、大学生のアルバイト収入は増加傾向。
家庭の実情に制度が合わなくなってきていました。
🧾 新設「特定親族特別控除」とは
こうした状況を受けて、2025年度税制改正では「特定親族特別控除」が新設されました。
これは、大学生などの年収が188万円以下なら、
段階的に控除を受けられる仕組みです。
| 子の給与収入 | 親の控除額(所得税) |
|---|---|
| ~150万円 | 63万円(満額) |
| 150~155万円 | 61万円 |
| 155~160万円 | 51万円 |
| 160~165万円 | 41万円 |
| 165~170万円 | 31万円 |
| 170~175万円 | 21万円 |
| 175~180万円 | 11万円 |
| 180~185万円 | 6万円 |
| 185~188万円 | 3万円 |
つまり、子どもの年収が188万円以下なら、
「控除がゼロにならず、段階的に減る」ように設計されています。
👨👩👧 どんな家庭が対象?
この控除の対象となるのは、
- 19歳以上23歳未満の子ども(大学生など)
- 親と生計を一にしていること(仕送りなどを含む)
- 合計所得金額が58万円超123万円以下(給与収入150~188万円)
となります。
控除は親の所得税・住民税の計算で使われ、結果的に親の税金が減る仕組みです。
💬 例:アルバイトを月15万円稼ぐ大学生の場合
たとえば、大学3年生の子どもが月15万円×12か月=年収180万円だったとします。
これまでなら103万円を超えた時点で扶養控除はゼロ。
親の税負担は数万円増えていました。
しかし新制度では、年収180万円なら「控除額6万円」が残ります。
完全には消えず、扶養の範囲を広く取れるようになるのが大きな特徴です。
📈 家計と働き方の両立を支援
政府がこの控除を導入した目的は、
「学生の就業意欲をそがずに、家計支援を両立する」ことにあります。
これにより、家庭の事情で学費や生活費を自分で稼ぐ学生が、
「親の税金が上がるから働けない」という矛盾を減らす狙いがあります。
また、企業側にとっても、学生アルバイトのシフト調整をしやすくなるメリットがあります。
⚠️ 注意:申告ミスに気をつけよう
2025年以降の年末調整では、
「給与所得者の特定親族特別控除申告書」という新しい様式が追加されます。
経理部門だけでなく、家庭でも次の点を確認しておくことが大切です。
- 子どもの年間収入見込みを正確に把握しておく
- 親子で同一人物を二重申告しない
- 所得の区分(58万円超123万円以下など)を間違えない
特に大学生のバイト収入は変動しやすく、途中で超えてしまうこともあります。
あらかじめシミュレーションしておくと安心です。
✏️ まとめ ― 扶養の“グレーゾーン”を減らす新制度
「特定親族特別控除」は、これまで“壁”のせいで生じていた不公平をやわらげる制度です。
段階的に控除額が減ることで、「103万円を超えたら一気に損」という問題が解消されます。
扶養を維持しながら子どもの自立を支援できる――
2025年の年末調整は、そんな“家族の働き方改革”の一歩ともいえるでしょう。
出典:『企業実務』2025年8月号
「年末調整に向けた『基礎控除の見直し等』『特定親族特別控除』の準備実務」
(税理士法人AOIみらい・長坂京)
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
