第3回:相続時の精算と実務上の注意点

税理士
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1️⃣ 相続発生時にどう「精算」されるのか?

相続時精算課税制度は、生前贈与時点では一旦贈与税を前払いし、
最終的に相続のタイミングで全体を清算する仕組みです。

贈与時点では2,500万円までの特別控除で贈与税がゼロになることも多いですが、
相続時には以下のように計算されます。


💡相続税の課税価格の算式

相続・遺贈による取得財産
+ みなし相続財産(死亡保険金・退職金など)
+ 相続時精算課税の対象財産の価額
− 債務控除(葬式費用など)
+ 7年以内の暦年贈与財産
= 相続税の課税価格


つまり、過去に相続時精算課税を使って贈与した財産は、相続財産に合算されます。
そして、すでに支払った贈与税額を相続税から控除することで最終的な納税額が決まります。

たとえば──

  • 生前に3,000万円を贈与(うち2,500万円は特別控除、超過500万円に贈与税100万円)
  • 相続時に全財産を合算すると、贈与分3,000万円も「相続財産」として含まれる
  • 最終計算した相続税額から、すでに納めた贈与税100万円を控除

このように、贈与税=前払い、相続時=最終清算という考え方になります。


2️⃣ 「相続しなかった人」も課税されるケース

相続時精算課税の注意点として、「遺産をもらっていない人」も課税される場合があります。

相続時精算課税を選択していた受贈者が、実際の相続で財産をもらわなくても、
過去の贈与分は「相続で取得した財産」とみなされ、相続税が課されます。

つまり、

「相続財産はゼロでも、生前贈与分だけで相続税が発生」
というケースがあり得ます。

この点は、家族間の取り決めや遺産分割時にトラブルの原因にもなります。


3️⃣ 贈与財産の「評価時点」に要注意!

相続税の計算で合算される贈与財産は、贈与時の価額で評価します。
相続時点で不動産や株式の価値が上がっていても、贈与時点の評価が基準です。

一見、有利に思えますが、
「値上がりが見込まれる資産」を早期に贈与してしまうと、
将来の相続財産を不当に圧縮したとみなされるリスクがあります。

実務上は、

  • 値上がりが見込まれる資産(不動産・株式)は慎重に
  • 値動きの少ない預貯金や保険金の贈与に適する
    といった判断がポイントです。

4️⃣ 債務控除の扱い

相続時精算課税の対象財産からも、債務控除が認められます。
ただし、その範囲には次の違いがあります。

区分対象となる債務控除
無制限納税義務者(国内居住者)すべての債務・葬式費用
制限納税義務者(非居住者)国内財産に関連する債務、公租公課のみ

また、相続時精算課税の受贈者が先に死亡した場合、
その相続人が承継した「納税義務」は債務控除の対象になりません。
これは、最終的な納付税額が確定していないためです。


5️⃣ 受贈者・贈与者が死亡した場合の扱い

制度運用で最もややこしいのが、「途中で亡くなった場合」です。

🧓 贈与者(親)が死亡した場合

→ その年に贈与を受けた財産も相続財産に含まれる
贈与税の申告は不要ですが、相続税では基礎控除後の残額を加算します。

👩 受贈者(子)が死亡した場合

→ 贈与者の死亡前に受贈者が亡くなると、受贈者の相続人が納税義務を承継します。
ただし、贈与者自身がその相続人の場合は除外されます。

👶 代襲相続がある場合

→ 子が亡くなった後、その孫が18歳以上であれば、同じ贈与者からの贈与について
相続時精算課税を引き継いで利用することが可能です。


6️⃣ よくある誤解とトラブル例

よくある誤解実際の取扱い
「贈与税を払えば、もう相続税は関係ない」相続時に必ず合算し、再度課税計算されます。
「暦年贈与に戻せる」一度選択したら、贈与者が亡くなるまで変更不可。
「110万円以下なら届出不要」初年度は申告不要でも「選択届出書」の提出が必要。
「居住予定があるだけで住宅特例が使える」翌年末までに実際に居住しなければ遡及否認。

制度の「一度選択したら戻れない」という特徴を理解しないまま使うと、
将来の相続で思わぬ課税トラブルになるケースが少なくありません。


7️⃣ まとめ ― “使う前の比較”が最大の対策

相続時精算課税は、

  • 高齢の親から若年世代へ大きな資産を移したいとき
  • 住宅取得や教育支援など目的が明確なとき
    に有効です。

しかし、相続税の仕組みと連動しており、
安易な節税目的では逆効果になることも。

👉 制度を選ぶ前にやるべきは次の3つです。

  1. 暦年課税とのシミュレーション比較
  2. 贈与財産の種類・評価額・値上がりリスクの確認
  3. 将来の相続人構成をふまえた「相続時の再計算シナリオ」の把握

これらを整理したうえで、「生前贈与の設計図」を描くことが何より大切です。


📘 参考資料
令和7年度第14回会員研修会「相続対策としての生前贈与について注意すべき点」
(講師:江本尚浩税理士、東京税理士会)


💬 シリーズ完結!
👉 「はじめての相続時精算課税」全3回

  1. 制度のしくみと改正ポイント
  2. 住宅取得資金の贈与特例
  3. 相続時の精算と実務上の注意点

という事で、今回は以上とさせていただきます。

次回以降も、よろしくお願いします。

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