■「何から手をつけていいか分からない」が9割
家族が亡くなったあと、深い悲しみの中で向き合うのが「相続手続き」です。
「葬儀が終わった後、どの書類を出せばいいの?」
「銀行口座が凍結されてしまった…」
「相続税の期限っていつまで?」
こうした声は、税理士・FPの現場で本当に多く聞かれます。
そこで今回は、相続発生から10カ月以内にやるべきことを、
時系列で分かりやすく整理しました。
■全体の流れをまず把握しよう
相続発生(死亡)
↓
【1】死亡届・年金・保険などの届け出
↓
【2】遺言書の確認・相続人の確定
↓
【3】財産の調査と相続放棄・限定承認の判断
↓
【4】遺産分割協議・名義変更
↓
【5】相続税の申告・納付(10カ月以内)
【1】死亡届・年金・保険などの届け出(7日〜14日以内)
📍やるべきこと
- 市区町村役場へ死亡届の提出(7日以内)
- 健康保険証の返却、年金受給停止の手続き
- 勤務先がある場合:会社への連絡、退職金・弔慰金の確認
- 生命保険の受取請求(できれば1カ月以内)
💡FPポイント
生命保険の死亡保険金は“相続財産に含まれない”扱い(みなし相続財産)で、
非課税枠は「500万円 × 法定相続人の数」。
この時期に受け取る保険金が、のちの相続税申告にも関係します。
【2】遺言書の確認・相続人の確定
遺言書があるかどうかで、相続の進め方は大きく変わります。
最近は法務局保管制度を利用しているケースも多いので、
まずは「遺言書検索システム」で確認を。
📍あわせてやること
- 戸籍をたどって相続人を全員確定(兄弟姉妹がいるケースは特に注意)
- 戸籍謄本をまとめて取得しておく(相続税申告にも使用)
【3】財産の調査と相続放棄・限定承認の判断(3カ月以内)
📍財産調査
- 預貯金・証券口座・不動産・生命保険・借金などを一覧化
- 金融機関に「残高証明書」を依頼(相続発生日で依頼)
- 固定資産税通知書や登記簿謄本で不動産確認
📍選択肢は3つ
1️⃣ 単純承認(すべて相続する)
2️⃣ 相続放棄(一切相続しない)
3️⃣ 限定承認(プラス財産の範囲でマイナス財産も引き継ぐ)
この判断は3カ月以内に家庭裁判所へ届け出が必要。
借金があるか分からない場合は、専門家(弁護士・税理士)へ早めに相談を。
【4】遺産分割協議・名義変更(〜6カ月目までに)
遺産分割協議は、相続人全員で話し合って合意し、
「遺産分割協議書」を作成・署名押印します。
📍協議がまとまったら
- 不動産 → 登記名義変更(法務局)
- 預金 → 銀行の相続手続き(各金融機関ごとに書類あり)
- 株式・投資信託 → 証券会社に名義変更依頼
- 自動車 → 陸運局で名義変更
💡FPポイント
登記を放置すると、将来「所有者不明土地」となり、
売却や活用ができなくなります。
2024年からは相続登記が義務化され、怠ると過料の対象に。
【5】相続税の申告・納付(10カ月以内)
📍提出先
被相続人の住所地を管轄する税務署
📍提出書類
- 相続税申告書
- 各財産の評価明細書(不動産・預金・保険など)
- 小規模宅地等の特例・配偶者控除等の添付資料
💡FP・税理士アドバイス
- 相続税の納期限は「延長なしで10カ月以内」。
- 現金納付が原則ですが、難しい場合は「延納・物納」制度もあり。
- 早めに税理士へ相談→概算評価→分割シミュレーションを行うことで、
節税と納税資金準備を両立できます。
■期限別まとめ表(カレンダー早見)
| 時期 | 手続き | 期限・目安 |
|---|---|---|
| 7日以内 | 死亡届の提出 | 市区町村役場 |
| 14日以内 | 健康保険・年金・勤務先手続き | 各保険者・会社 |
| 3カ月以内 | 相続放棄・限定承認 | 家庭裁判所 |
| 6カ月以内 | 遺産分割協議・登記・預金名義変更 | 各窓口 |
| 10カ月以内 | 相続税の申告・納付 | 税務署 |
■FP・税理士からの実務アドバイス
相続手続きは、「悲しみ」と「期限」が同時にやってくる世界です。
だからこそ、“一人で抱えない”ことが大切。銀行・証券・役所・税務署……すべてに期限があり、
遅れると余計な税金や手続きの手間が増えます。
早い段階で**「手続きの地図」を描いて動く**こと。
それが、家族にとって最も優しい相続対応です。
📚参考:
- 国税庁「相続税の申告のしかた」
- 法務省「相続登記の義務化について」
- 厚生労働省「遺族年金・保険金の手続きガイド」
- 日本経済新聞「まさか私も相続税? 地価高騰、申告対象者10年で3倍弱に」
🧭次回予告(実務手続き編・第2弾)
📂「相続税の申告書、こうやって読む」
——税務署に出す“あの書類”を、税理士が一枚ずつやさしく解説。
「申告書の構成」「財産評価のポイント」「特例の添付資料」など、
実際の申告プロセスを“可視化”する内容に進みます。
✍️あとがき
相続の手続きは、人生の中でそう何度も経験するものではありません。
だからこそ、「流れを知っている」ことが何よりの備えです。相続を“焦らず、抜け漏れなく、心を込めて”進める。
それが、家族への最後のやさしさだと思います。
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
