インドで、消費税に相当する「物品・サービス税(GST)」が大幅に引き下げられました。
400品目を対象に税率を5%と18%の2段階へ簡素化した結果、家電や自動車が飛ぶように売れ、祝祭期の商戦は“特需”に沸いています。
一方の日本では、「消費税減税」についてたびたび議論が浮上するものの、実現には慎重な声が多いのが現状です。
今回は、インドの事例を踏まえながら、「もし日本で消費税を下げたらどうなるか」を、生活者と政策の両視点から考えてみましょう。
◆1. インドで起きた「減税バブル」
インド政府は、米国との関税交渉が難航し、景気の減速懸念が強まった9月に思い切った減税を実施しました。
食品や日用品、自動車、家電などを中心に400品目の税率を引き下げ、複雑だった税率体系も2段階に整理。
これが見事に「消費マインド復活の引き金」となりました。
- 小型車(排気量1200cc未満)は28%→18%に引き下げ
- タタ自動車の販売台数は前年同月比45%増
- アマゾンなどEC企業も48時間で3億8千万人がアクセス
- LG電子は「プレミアム家電への買い替え需要が急増」とコメント
まさに“祭りと減税が重なったタイミング”で、消費意欲に火がついた形です。
一方で、ビジネスクラスの航空運賃や高級ブランド衣料などには増税が課され、富裕層向けの消費は抑制されました。
この「選択と集中」が、庶民層の購買力を高めたポイントでもあります。
◆2. 日本で「消費税減税」を行うとどうなるか?
もし日本が同じような減税を行った場合、どのような効果と課題が考えられるでしょうか。
◎期待される効果
- 家計の可処分所得が増え、消費が回復する
- 物価上昇に苦しむ中で“実感のある支援策”になる
- 特に中小企業・商店街などの売上に波及効果がある
実際、2020年のコロナ禍では「消費税5%への一時減税」を求める声が強まりました。
価格が下がれば心理的な抵抗が薄れ、消費喚起の即効性は高いといわれます。
◎懸念される課題
しかし、問題は「財源」です。
日本の消費税は年間で約23兆円(2024年度見込み)の税収をもたらし、その多くが社会保障の財源に充てられています。
仮に2%下げるだけでも、約4〜5兆円の減収になります。
これは子育て支援金や年金財源に直結するため、単純な減税は財政を大きく圧迫します。
また、すでに軽減税率(8%)やインボイス制度など複雑な仕組みが導入されており、税率変更はシステム・運用コストも膨らみます。
さらに、「一度下げた税率を戻す政治的ハードル」は極めて高い。
英国のトラス政権が減税で市場混乱を招いた事例も記憶に新しいところです。
◆3. 実現可能な“現実的な形”とは?
それでも「物価高で苦しむ国民生活を支える減税」は政治的に大きなテーマです。
完全な恒久減税ではなく、「期間限定・対象限定」の減税という形なら、一定の現実味があります。
たとえば——
- 期間:半年〜1年限定
- 対象:食料品・エネルギー・日用品
- 方法:軽減税率を5%へ引き下げ
- 補完策:低所得層への給付金(給付付き税額控除)を併用
こうした「時限的・選択的減税」であれば、景気刺激と生活支援の両立が可能です。
同時に、減税終了後に元の税率へ戻す「出口戦略」もセットで明示することが不可欠です。
◆4. 減税は“万能薬”ではないが、使い方しだいで効く
税金の引き下げは、一見わかりやすい景気刺激策です。
しかし、持続的な経済回復を支えるには、減税だけでなく「構造改革」や「所得増加」との組み合わせが必要です。
たとえば:
- 物価上昇を上回る賃上げ(実質所得の改善)
- 社会保険料の負担軽減
- 住宅ローン控除・教育費控除など“ targeted support ”の充実
インドでは「減税+祝祭期+中間層の消費意欲」が奇跡的にかみ合いました。
一方の日本では、「高齢化・社会保障・財政赤字」という制約の中で、慎重な設計が求められます。
◆まとめ
インドの減税は、単なる数字の引き下げではなく、「国民の購買心理を動かす政策デザイン」でした。
日本で同様の特需を起こすには、減税そのものよりも——
「どの層にどう届くか」「どのタイミングで実施するか」の設計がカギになります。
家計を支える政策は、「金額」よりも「実感」。
消費税のあり方をめぐる議論は、今後の社会保障・経済運営をどう考えるかを映す“鏡”なのかもしれません。
出典:2025年10月11日 日本経済新聞「インド、大型減税で特需 自動車・家電、販売伸ばす」
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
