2025年10月9日、日本経済新聞社主催の「金融ニッポン」トップ・シンポジウムが開かれました。
登壇したのは、3メガバンク(三菱UFJ・みずほ・三井住友)と、2大証券(野村・大和)のトップ。
日本経済が緩やかに回復する中で、AI(人工知能)の急速な進化、為替の変動、そして政権交代という転換点を迎える中、彼らが語ったのは「変化を恐れず、成長をつかむ金融の未来」でした。
1. 株価は最高値圏、それでも冷静な視線
日経平均株価は4万7000円台の高値圏。
その背景には「企業統治の改善」「海外投資家の日本回帰」、そして「高市政権への期待」があります。
野村HDの奥田社長は、「海外マネーは今後も日本株に流れ続ける」と語りました。
大和証券の荻野社長は、2025年末の日経平均を4万9000円と予測し、「一時的には5万円を超える場面も」と大胆な見通しを示しています。
一方で、みずほFGの木原社長は冷静です。
「レバレッジ(てこ)の過熱には注意が必要」と警鐘を鳴らし、特に米国のプライベートクレジット(ファンドによる融資)の動きを注視しています。
2. 金利・為替・物価──“正常化”の中で見えてきた新しい日本
日銀がマイナス金利を解除してから半年以上。
三菱UFJの亀澤社長は「金融正常化の方向は変わらない」とし、次の利上げ時期を「10月〜来年1月ごろ」と予想。
三井住友の中島社長は、「金利上昇は経済再成長の証」と前向きにとらえ、「日本の金利正常化はまだ“二回裏”」と独特の比喩で語りました。
GDPは5期連続のプラス成長、企業の設備投資も好調。
賃上げの定着と“貯蓄から投資へ”の流れが本格化しており、日本経済がようやくデフレの呪縛から抜け出そうとしていることを実感させます。
3. 金融とAIが融合する時代へ
今回のシンポジウムで最も印象的だったのは、「AIが金融の裏側すべてに入ってくる」という発言です。
三菱UFJの亀澤社長は、社内AIツール「AI-bow(アイボウ)」を紹介。
「AIをチームの一員として迎え入れられるかが、企業の分かれ道になる」と強調しました。
みずほの木原社長は「AIを使う“人間側の成長”がカギ」と語ります。
人間にしかない「対話力・共感力・倫理観」をどう掛け合わせるかが、AI時代の付加価値になります。
また、みずほが買収したスタートアップ「UPSIDER」の与信モデルをAIに学習させ、融資判断に活用する構想も披露。
AIが金融判断を行う時代が現実味を帯びています。
野村の奥田社長は、インドに5000人のIT人材を抱え、契約書作成などをAIで自動化する取り組みを紹介。
グローバル化とAI活用を同時に進める姿勢を示しました。
一方、大和証券の荻野社長は「私が率先してAIを使い倒している」と語り、電話対応業務に導入したAIオペレーターが1日1万5000件の問い合わせに応えた実績を披露。
AIが“人の手を解放する”という実例です。
4. AIに頼りすぎない、理性と倫理のバランス
AI活用が進む一方で、各社トップは“AIへの過信”に警鐘を鳴らしました。
みずほの木原社長:「AIの判断はブラックボックス化しやすい。偏ったデータで公正さを欠く危険がある」
三菱UFJの亀澤社長:「AIを神格化する誤解が生まれないよう、社員教育が重要」
野村の奥田社長:「最後は人の理性と倫理で判断する流れをつくることが大切」
AI時代の金融は、単なる技術競争ではなく、「人間性をどう維持するか」という哲学的な段階に入っているといえるでしょう。
5. 新政権に求められる「金融立国」のビジョン
政権交代を控え、各トップからは政治への提言も相次ぎました。
大和の荻野社長は、「株価を支える最大の要因は新政権への期待。早期に政権の骨格を固めてほしい」と要望。
三井住友の中島社長は、「金融を成長産業と位置づけ、業態横断の規制緩和を」と強調しました。
みずほの木原社長は「省力化投資の促進」を提案。
G7で日本の設備の老朽化が進む中、生産性向上のための税制支援が必要だと訴えました。
外交面でも、米トランプ政権の関税政策を意識し、
「日米協調」「関税引き下げ」「外への発信力」などがキーワードとして浮上しています。
6. 「金融は社会インフラ」――変化を恐れず、共に進む時代へ
シンポジウム全体を通じて感じられたのは、金融機関トップたちの「危機感」と「覚悟」です。
AIの進化、世界経済の分断、そして日本の構造転換。
どれも“待ったなし”の課題です。
しかし同時に、「変化はチャンスでもある」と彼らは語ります。
AIを“相棒”にし、金融を“成長産業”に変える。
その挑戦の先に、個人も企業も豊かに生きる未来が見えてくるのではないでしょうか。
💬あとがき
この記事は、2025年10月10日付の日本経済新聞朝刊
「金融ニッポン」トップ・シンポジウム関連3記事
(『激変下でも成長続く』『AI拡大対応は』『新政権へ注文相次ぐ』)をもとに、
税理士・FPの視点から要約・解説しました。
AI時代における金融・経済・政策の三位一体の動きを、
次回は「個人投資家とAI運用のこれから」というテーマで取り上げます。
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。

