2025年秋までに結論を出すとされた「高額療養費制度の見直し」が、再び宙に浮いています。
自民党の高市早苗総裁にとって、就任早々に立ちはだかるのがこの社会保障の難題です。
高額療養費制度とは
高額療養費制度は、医療費が一定額を超えたときに払い戻しを受けられる仕組みです。
例えば、入院や手術などで医療費が高額になっても、自己負担は所得区分に応じて上限が設けられています。
この制度によって、多くの人が「安心して病院にかかれる」ことを支えています。
ただ、その安心を守るために必要な財源は年々膨らんでいます。
社会保障給付費は2025年度予算ベースで約140兆円、30年前のほぼ倍です。
少子高齢化が進む中、医療費の適正化は避けて通れないテーマとなっています。
政治の判断が止まったまま
政府はもともと、2025年8月から段階的に上限額を引き上げる予定でした。
所得区分に応じて2.7〜15%の引き上げを行い、2026〜27年にかけてさらに負担を求める方針でした。
背景には「平均給与が10%ほど上昇しており、応分の負担をお願いする」という理屈があります。
制度全体では約5300億円の給付削減効果が見込まれ、そのうち約3700億円分は社会保険料を軽減できる試算もありました。
しかし、患者団体や野党から「治療中断を招く」との強い反発があり、石破政権が凍結。
その後の参院選で与党が少数に転じたことで、政治判断は一層難しくなりました。
高市政権の試金石に
高市総裁は就任会見で「補正予算を使って医療・介護分野の支援を急ぐ」と発言しました。
インフレや人件費高騰で苦しむ医療機関や介護施設を支える意欲を示す一方、
歳出を抑制しなければ国の借金は増え、現役世代の負担はさらに重くなります。
「責任ある積極財政」を掲げる高市氏にとって、まさに“両立の試金石”です。
支援と持続可能性のバランスをどう取るか。これこそ政治の腕の見せどころです。
現場から見える課題
私は税理士・FPとして、日々多くの方の家計相談を受けています。
高額療養費制度のような「いざという時の備え」があるからこそ、安心して働ける。
しかし同時に、医療や介護の現場が疲弊してしまえば、その安心も続きません。
医療報酬の改定や、OTC類似薬の保険適用見直し、75歳以上の窓口負担の在り方など、課題は山積みです。
「どこに手をつけるのか」「どこを守るのか」を明確にすることが、今こそ求められています。
決断の3カ月へ
この秋、高市政権がどんな決断を下すのか。
高額療養費の行方は、単なる医療制度の話ではありません。
社会保障全体の持続性、そして「世代間の公平」をどう考えるかという大きな問いです。
私たち現役世代が安心して保険料を払い、老後も安心して医療を受けられる社会を守るために。
政治が逃げずに向き合うべき3カ月が、まさに今、始まっています。
📘出典:2025年10月8日 日本経済新聞朝刊「高額療養費『秋に方針』浮く」
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。

