■AIが仕事を奪う? それとも仕事を変える?
生成AI(ChatGPTなど)の登場で、「AIが税理士の仕事を奪う」との声が広がりました。
確かに、記帳代行・仕訳・税務申告・文書作成といった定型業務の多くは、AIで自動化されます。
しかし――本質的に問われているのは、
「AIに任せること」ではなく、「AIと何を創るか」。
税理士の未来は、“仕事を失う”かどうかではなく、
“役割を再定義できるかどうか”にかかっています。
■AI時代の税理士業務:3つの再構築
AIの進化によって、税務の世界はすでに変わり始めています。
今後、税理士の仕事は次の3層に再編されていくでしょう。
| 層 | AIの活用領域 | 人間の役割 | 特徴 |
|---|---|---|---|
| ① オペレーション層 | 記帳、仕訳、確定申告、レポート作成 | チェックと最終判断 | AIによる自動処理+人的検証 |
| ② コンサルティング層 | 節税、資金繰り、事業承継、経営分析 | 判断と助言 | AIが出した数値を「経営の言葉」に翻訳 |
| ③ 共創・信頼層 | 経営理念、人生設計、社会的価値支援 | 対話と信頼形成 | AIに代替できない“人の理解と共感” |
AIが得意なのは「処理」。
人間にしかできないのは「解釈」と「共感」。
この役割分担を明確にできた専門家ほど、AI時代の中心に立つことができます。
■税理士は「データを語る翻訳者」になる
AIによって、企業の財務データや確定申告データは一瞬で処理できるようになります。
では税理士は何をするのか。
それは、データに「意味」を与える仕事です。
数字を読む人から、数字で未来を描く人へ。
たとえば、AIが自動生成した月次試算表から、
「この会社は何に強みがあるのか」「次にどんな投資をすべきか」を導く。
これこそ、AI時代に必要とされる“判断力型税理士”です。
AIが「答え」を出す時代に、
税理士は「問い」を立てる専門家へと進化します。
■FP・税理士に共通する使命:「安心のデザイン」
AI時代のもう一つの特徴は、
顧客が“数字以上の安心”を求めるようになることです。
AIが完璧な計算をしても、
「この決断で本当に大丈夫ですか?」という不安は消えません。
そこで税理士やFPの役割は、
“お金の正解”ではなく、“生き方の納得”を共に探すこと。
AIが数字を導き、
専門家が心を整える。
この関係性が、人生100年時代の「安心のデザイン」なのです。
■AIが拓く「ひとり税理士」の黄金期
AIを味方につければ、
少人数でも大手並みの生産性を実現できます。
- 記帳・申告の自動化
- ChatGPTによる税務調査対応の文書作成
- AIレポートによる経営分析・補助金提案
- クラウド連携で全国の顧問先をサポート
AIは「ひとり税理士」の武器になります。
そして時間が生まれた分、
顧客と“対話”する時間を増やすことができる。
テクノロジーが作るのは、効率ではなく“人間性の余白”。
その余白をどう活かすかが、次の時代の差になります。
■AI倫理と専門家の信頼:透明性が価値になる
AIが生成する内容は便利である一方、
「根拠が見えない」「誰が責任を持つのか」という不安も伴います。
これからは、
- 出典や計算根拠を明示する“説明責任型AI活用”
- AIの助言を人間が最終判断する“ダブルチェック体制”
- 顧客データの安全を守る“情報倫理”
こうした透明性と信頼性が、専門職の評価軸になります。
AIの使い方そのものが、専門家の人格を映す時代――。
信頼の質が、最も大きなブランド資産になります。
■まとめ:AIが仕事を変え、人が価値をつくる
AIは、税理士の仕事を減らすのではなく、
“人の価値を再発見させる装置”です。
・AIが数字を処理し、
・税理士が物語を描き、
・顧客が未来を選ぶ。
この三者の共創が、次世代の専門サービスの姿です。
AIと共に働く未来とは、
「AIに頼る」ことではなく、
「AIを通して人の本質に還る」こと。
そしてその中心にいるのが――
税理士という“人と社会をつなぐ専門家”なのです。
出典:日本経済新聞 / 税理士業界動向報告2025 ほかをもとに構成
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。

