■ 「減税=善」という発想を見直すとき
税制改革というと「減税」や「負担軽減」といった言葉が先に立ちます。
しかし、近年の日本では、目的を失った“恒久的な減税”が増え続けているのが実情です。
かつて一時的な経済対策として導入された特例が、その後も延命され、いまや「制度の目的が何だったのかすら分からない」ケースも少なくありません。
研究開発税制や賃上げ促進税制も、その代表的な例です。
藤田文武・日本維新の会共同代表が指摘したように、「租税特別措置は財務テクニックになっている」という問題意識の背景には、“成果なき減税”が常態化している日本の税構造があります。
■ 租税特別措置が増えすぎた理由
租税特別措置は、もともと「政策目的の達成」を助けるための例外措置として誕生しました。
しかし、政治的な要因・業界団体の要望・選挙公約などを通じて次々と新設され、結果として200項目以上に膨張しました。
制度が増えるたびに税制は複雑化し、
- 効果の検証が困難
- 行政コストの増大
- 恩恵の偏在
という弊害が深刻化しています。
「減税は痛みを伴わない支出」といわれるように、予算の裏付けが見えにくいぶん、政治的に“作りやすく消しにくい”構造になっているのです。
■ 現状の課題:3つの歪み
今の租税特別措置制度には、次の3つの歪みがあります。
- 大企業偏重の構造
研究開発・賃上げ税制など、多くの減税は利益を出している企業しか恩恵を受けられない。 - 後付け・帳尻合わせ型の政策運用
成果を出した企業に税を“戻す”構造で、政策効果の因果関係が弱い。 - 制度の乱立による透明性の低下
「誰が」「どの分野で」「どれだけ恩恵を受けているのか」が分かりにくい。
結果として、「政策としての税制」が「制度温存の税制」に変質してしまっているのです。
■ 「減税から成果へ」— 新しい税制デザイン
では、これからの税制はどの方向を目指すべきでしょうか。
キーワードは 「成果主義の税制」 です。
つまり、「使った額」ではなく、「生み出した成果」で税制を評価する考え方。
たとえば――
| 現行制度 | 今後の方向性 |
|---|---|
| 研究費を使えば減税 | 実際に新技術・特許・生産性向上が生まれたら優遇 |
| 賃上げをすれば減税 | 教育訓練・人材育成による持続的賃上げを優遇 |
| 設備投資をすれば減税 | 環境・地域貢献など社会的インパクトで評価 |
このように、「行為へのご褒美」から「成果への報酬」へと軸足を移すことが、税制の再設計には不可欠です。
■ 「政策のポートフォリオ化」という発想
成果主義の税制を進めるうえで重要なのは、税制と他の政策手段を組み合わせて運用することです。
たとえば、
- 研究初期:補助金・助成金でリスクを下げる
- 実用化段階:税制優遇で事業化を後押し
- 成果確認後:税控除の調整でメリハリをつける
つまり、税制を単独で動かすのではなく、予算・金融・産業政策と一体運用する「政策ポートフォリオ」へ移行することが必要です。
税制が“万能薬”ではないと認めた上で、他の政策ツールとバランスをとる視点が問われています。
■ 公平性と透明性をどう確保するか
租税特別措置の「見える化」も欠かせません。
財務省はすでに各制度の「適用件数・減税額・効果分析」を公表していますが、専門家でも理解しづらい構成です。
これからは、
- 誰がどれだけ恩恵を受けているか(企業・業界別)
- どの政策がどの成果を生んでいるか
を一般国民にも分かる形で公開し、説明責任を果たすことが不可欠です。
いわば「税の見える化」が、次の時代の民主主義の土台になります。
■ 改革の主役は政治
租税特別措置の整理・統合は、財務官僚だけでは進みません。
業界や自治体との関係が複雑に絡む中で、「痛みを伴う選択」を政治が引き受けなければならないからです。
藤田文武氏が強調する「短期的には経済対策を、長期的には価値観を共有できる政治を」という言葉の背景には、
単なる増税・減税の議論を超えた、“構造改革としての税制再設計”という視点があります。
税制は、経済の「血流」であると同時に、政治の「意思」を映す鏡でもあります。
その設計思想をどう変えるかが、次の日本の針路を決めるといっても過言ではありません。
■ まとめ:減税を「手段」から「成果」に変える
いまの日本に必要なのは、
- 減税の数を競う政治ではなく、
- 減税の成果を問う政治です。
研究開発、賃上げ、地域振興――それぞれの分野で、単なる支出削減ではなく、社会の生産性や人の幸福度につながるかどうかを問う。
その先にあるのは、「減税から成果主義へ」という新しい税制哲学です。
税は単なる徴収の仕組みではなく、国の方向を示すメッセージ。
いま、そのメッセージをどう再設計するかが、日本の未来を左右しています。
出典:
・財務省「租税特別措置の適用実態調査(令和6年度)」
・日本経済新聞(2025年10月6日)「維新・藤田氏『研究開発税制も対象に』」
・日本維新の会 経済政策資料(2025年)
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。

