◆ なぜ今、証券市場が注目されるのか
ここ数年、株式市場のニュースが連日のように報じられています。
日経平均株価は1989年のバブル期を超える水準に達し、「バブルの再来」と言われることもあります。
しかし今回の上昇は、かつての過熱とは異なります。企業の経営改善や株主への利益還元、そして何より個人の資産形成意識の変化が背景にあります。
経済が成熟し、人口減少が進む日本では、国全体の成長力を高めるには「家計の金融資産」が動くことが欠かせません。
つまり、一人ひとりの投資行動こそが日本経済のエンジンになるのです。
◆ 日本の家計が抱えてきた“30年の停滞”
米国の家計金融資産はこの20年で約3倍に増えましたが、日本はわずか1.5倍にとどまっています。
原因の一つは、「投資=危ない」「預金=安心」という固定観念。
結果として、日本の家計の約5割が現預金に偏り、お金が“眠ったまま”になっています。
しかし、物価上昇が続くいま、預金だけでは資産の実質価値が目減りします。
貯めるだけでなく「育てる」時代へ。
金融教育が整い、投資信託やNISAなどを通じて、誰もが参加できる仕組みが広がり始めました。
◆ 家計と企業をつなぐ“インベストメントチェーン”
企業が将来への投資を進め、家計が証券市場に資金を投じる。
この好循環を「インベストメントチェーン」と呼びます。
家計の資金が企業の成長に使われ、その企業の株価上昇や配当として家計に還元される――。
この循環が広がれば、国全体の富が増え、生活の豊かさにつながるのです。
ただし、企業側にも課題は残ります。
日本企業の自己資本利益率(ROE)はまだ10%に届かず、米国企業の約半分。
株主還元や自社株買いだけでなく、成長分野への再投資や構造改革が不可欠です。
家計の信頼を得るには、「企業が本気で変わっている」と感じさせる経営努力が求められます。
◆ 「貯蓄から投資へ」を支える新しい制度
2024年に始まった新NISAは、まさに令和の証券民主化の象徴です。
すでに成人の4人に1人が口座を持ち、世代を超えて投資が広がり始めています。
さらに、少額から始められる仕組みが拡充されたことで、若い世代や主婦層も一歩を踏み出しやすくなりました。
たとえばNTTが株式を25分の1に分割したところ、株主数が3倍に増えたという事例もあります。
「少額から」「身近な企業に」「中長期で」。
こうした投資スタイルが広がることで、家計の金融資産は確実に動き始めています。
◆ 令和の証券民主化――“一人ひとりが経済の主役”に
戦後の「証券民主化」は、財閥解体で生まれた株を国民が持つことで、“資本の再分配”を進めるものでした。
今の令和版証券民主化は、「自分の未来を自分で育てる」運動といえるでしょう。
NISAやiDeCoを通じて、誰もが経済の一部を担い、企業の成長を共有できる。
お金を「使う人」から「活かす人」へ。
その意識の変化が、国の豊かさを底上げします。
◆ おわりに:小さな一歩から始めよう
投資というと、難しい分析や高額な資金を思い浮かべがちですが、実際には1,000円単位から始められるサービスも多くあります。
大切なのは「続けること」と「学びながら成長すること」。
少額でも市場に関わり、自分の資産が少しずつ増えていく実感を持つことが、次の一歩につながります。
令和の証券民主化は、政府や金融機関だけの取り組みではありません。
私たち一人ひとりの“行動の積み重ね”こそが、日本の富を育てる力になるのです。
出典:
2025年10月6日 日本経済新聞 朝刊「家計が持続して潤う令和の証券民主化に」
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。

