税理士・FPが見た「定年後キャリアの落とし穴」― 年金・税金・健康保険の“境目”をどう乗り越えるか

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■「働けるのに手取りが減る」──定年後のリアルなギャップ

定年を迎えて再雇用やフリー契約で働く人が増えています。
しかし実際には、「収入が減ったのに、なぜか手取りも少ない」「思ったより税金が高い」
という声が少なくありません。

その理由は、制度の“境目”に潜む見落としやすい落とし穴にあります。
年金・税金・健康保険・雇用形態が同時に変わるタイミングだからこそ、正しい理解と事前準備が欠かせません。


■落とし穴①:年金と給与の「併給調整」

60歳以降に再雇用やパートで働くと、年金と給与の“ダブル収入”になります。
このとき注意すべきは、「在職老齢年金制度」です。

  • 60~64歳:月給+年金が「28万円超」で年金が一部カット
  • 65歳以上:基準額が「47万円」に引き上げ(2022年改正)

つまり、働き方や勤務時間を変えるだけで、
年金が減ることがあるのです。
また、在職中の厚生年金保険料を払い続けることで、
65歳以降に「年金額が増える」メリットもあります。

👉 対策ポイント

  • 収入設計は「総支給額」ではなく「社会保険料控除後」で試算
  • 在職老齢年金のカットを避けたい場合、勤務形態を調整する
  • “在職定時改定”を活用して年金を上乗せ

■落とし穴②:社会保険の「加入・脱退」のタイミング

再雇用・嘱託・個人契約など働き方が変わると、
社会保険の加入条件も変わります。

  • 厚生年金・健康保険:週20時間以上・月収8.8万円以上で原則加入
  • 国民年金・国民健康保険:フリーランスや非加入者は個人で負担

特に、会社を離れてフリーランス転身した直後に保険の切り替えが遅れると、
「未加入期間(無保険状態)」が生じるケースもあります。

👉 対策ポイント

  • 退職翌日から14日以内に健康保険・年金を切り替える
  • 家族の扶養に入るか、自身で国保・国年に加入するかを選ぶ
  • 再雇用中も、報酬形態によっては「社会保険適用外」になることに注意

■落とし穴③:再雇用・副業時の「税金の壁」

65歳以降も働き続ける人にとって、
意外に負担が重くなるのが所得税と住民税です。

  • 再雇用で給与を受け取る場合 → 給与所得控除あり
  • 顧問契約・業務委託などの場合 → 事業所得または雑所得

この違いで、経費が認められるか・源泉徴収されるか・確定申告が必要かが変わります。

また、副業やフリーランス収入が20万円を超えると、申告義務が発生します。
「年金は非課税」と誤解して申告を忘れるケースも要注意です。

👉 対策ポイント

  • 年金+給与+副業収入のトータルで課税所得を把握する
  • 青色申告(事業所得)に切り替えられるかを検討
  • 所得控除・配偶者控除・医療費控除の活用で課税所得を圧縮

■落とし穴④:「健康保険料」と「介護保険料」の二重負担

65歳を境に、健康保険と介護保険の扱いも変わります。
特に年金受給者は、年金からの天引き(特別徴収)が始まるため、
再雇用先で給与天引きと二重に徴収されることも。

👉 対策ポイント

  • 「二重徴収」になっていないか、年金機構・自治体で確認
  • 収入構成によっては、保険料が住民税に連動して上がる
  • 公的保険料控除の限度額を意識して年末調整を最適化

■落とし穴⑤:「法人化」「顧問契約」時の見落とし

定年後に顧問契約やコンサル業を始める人も増えています。
このとき、法人化(合同会社など)することで節税できるケースもありますが、
社会保険の加入義務役員報酬の設定を誤ると逆効果です。

👉 対策ポイント

  • 報酬額を年金との兼ね合いで設定(在職老齢年金に影響)
  • 役員報酬は変更できる時期が年1回のみ
  • 法人化の前に「開業届+青色申告」から始めるのも有効

■FP・税理士として伝えたいこと

定年後キャリアで重要なのは、「働く意思」ではなく「制度理解」です。
再雇用・副業・フリーランス・年金受給――。
どれも単独で考えるとシンプルですが、
重なる時期に“境目のズレ”が起こると、思わぬ損をします。

働きながら年金を受け取る、社会保険を維持する、税負担を抑える――。
これらを“最適化”するには、専門家による横断的な設計が欠かせません。
まさに、FPと税理士が人生の伴走者となる場面です。


■まとめ:「境目」を知る人が、自由に働ける

定年後の働き方を不安に感じる人ほど、
実は制度を“知らないだけ”というケースが多いのです。
境目のルールさえ理解すれば、
働きながら安心して暮らすことは十分に可能です。

50代・60代は、“働くこと”と“もらうこと”が重なる時期。
だからこそ、

「働けば損」「年金は減る」という誤解をなくし、
“制度を味方につけて働く”発想が求められます。

制度は敵ではなく、使い方次第で味方になります。
定年後のキャリアは、知識を武器にデザインできる時代です。


出典:2025年9月19日 日本経済新聞 朝刊
「大企業辞めずに『出向起業』、埋もれる技術に光 支援の仕組みは手探り」


という事で、今回は以上とさせていただきます。

次回以降も、よろしくお願いします。

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