これまで2回の連載で、租税特別措置(租特)の仕組みと、日本維新の会が教育無償化の財源として見直しを訴える構図を整理しました。今回は、ちょうどタイミングを同じくして進んでいる自民党総裁選と租特論争の関係に焦点を当てます。
租特は単なる税制のテクニカルな問題に見えますが、実は総裁選の候補者それぞれの立場を映し出す「鏡」のような存在です。経済成長を優先するのか、それとも財源の見直しを進めるのか。候補者の発言を追うと、自民党の未来像が浮かび上がってきます。
総裁選の背景
現在の自民党は、衆参両院で単独過半数を持っていません。予算や法案の成立には、野党との協力が不可欠です。特に教育無償化では日本維新の会と歩調を合わせており、政策連携は現実的な課題となっています。
そんな中で行われる総裁選。候補者にとっては「租特をどう扱うか」が、経済政策や連携戦略を示す重要なメッセージになるのです。
候補者ごとの立場整理
総裁候補の発言を整理すると、大きく二つのグループに分かれます。
1. 租特を維持・拡充すべき派
- 小泉進次郎農相
「日本経済の活力を取り戻すため、研究開発税制や賃上げ促進税制を積極的に活用する」と発言。拡充の方向性をにじませています。特に「賃上げ促進税制は必要」と訴え、経済を底上げする姿勢を前面に。 - 林芳正官房長官
小泉氏とほぼ同調。実質賃金1%上昇を掲げ、中小・小規模事業者に大胆な負担軽減を行うと強調。「ほとんど政策はかぶっている」と語り、租特を守る立場を明確にしています。
両者は「新しい資本主義」を継承する立場であり、租特を「経済成長を支える制度」として重視しているのです。
2. 租特の見直し・改廃に前向き派
- 高市早苗前経済安保相
「中長期的な財源として租税特別措置の見直しなどの仕組みを考えなければならない」と発言。維新との連携を意識しつつ、教育財源に充てる可能性を示唆しています。 - 茂木敏充前幹事長
大企業への賃上げ促進税制の適用に疑問を呈し、効果の再検証を求めています。「恩恵が大企業に偏っていないか」という問題意識は維新に近い論点です。 - 小林鷹之元経済安保相
租特の改廃に踏み込み、「制度の抜本的見直しが必要」と主張。財源論としても積極的に言及しており、見直し派の中でも強めの立場です。
このグループは「維新との協調」「財源確保」「既得権益打破」をキーワードに据えており、政権刷新のアピールにつなげています。
自民党のジレンマ
租特をめぐる議論は、自民党にとって難しい選択を迫ります。
- 租特は「新しい資本主義」の柱であり、研究開発や賃上げを促すために導入・拡充してきた経緯がある。
- しかし、既得権益化や透明性の欠如が批判されており、「教育無償化のために見直すべきだ」という声は国民に響きやすい。
つまり「経済成長を重視すれば維新との連携が難しくなり」「見直しを容認すれば経済界の反発を招く」という板挟みなのです。
維新との距離感
今回の総裁選では、候補者がどの程度維新に歩み寄るかも注目ポイントです。
- 小泉・林の路線は「現状維持・拡充」であり、維新との温度差が目立ちます。
- 高市・茂木・小林は「見直し容認」であり、維新との協議余地を広げる姿勢です。
この違いが総裁選後の連立交渉や政策合意に直結する可能性が高く、単なる税制論を超えて政局の分かれ目となっています。
今後の展望
10月中には私立高校への就学支援金制度の大枠が決まり、10月4日以降は新総裁の下で財源論が本格化します。その時に問われるのが「租特の扱いをどうするか」です。
- 維新は「租特を削って教育へ」を強調
- 自民党内では「経済成長に必要」という声と「見直しも必要」という声に分裂
- 政策判断次第では、教育無償化と経済政策の両立をどう図るかが新政権の試金石になる
総裁選後の連携・合意の行方が、日本の教育政策と経済成長戦略を左右することになるでしょう。
まとめ
- 総裁候補は「租特維持派」と「見直し派」に分かれている
- 維持派(小泉・林)は経済成長を重視し、拡充路線を示唆
- 見直し派(高市・茂木・小林)は教育財源や既得権益打破を意識
- 自民党は「経済界との関係」と「維新との連携」の板挟み状態
- 総裁選後の政策判断が、教育無償化の実現に直結する
📌 参考:
日本経済新聞朝刊(2025年10月4日付)
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
