遠のく夢のマイホーム(最終回・総まとめ)新築偏重から多様な住まい方へ

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1. 住宅をめぐる現実

「結婚したら家を買い、定年までにローンを返し終える」――。かつて当たり前とされたライフモデルは、いまや現実とかけ離れています。

  • 東京23区の新築マンション平均価格は 1.3億円超(2025年上半期)
  • 年収倍率は全国平均で 10倍、東京都は 18倍
  • 戸建ても5年前より1,000万円以上高騰

かつての「年収の5倍で買える家」は完全に過去のものとなり、中間層ですら家を買えない社会が訪れています。


2. 崩れた「従来モデル」

高度経済成長期に成立した「結婚→持ち家購入→定年で完済」のモデルは、以下の変化で崩れました。

  • 雇用の不安定化:終身雇用・年功序列が崩壊
  • 未婚化・晩婚化:単身世帯が増加
  • 人口減少:新築需要の縮小、着工戸数は最盛期の半分以下
  • 老後の条件変化:「老後2,000万円問題」も、持ち家前提の試算だった

住宅はもはや「買うのが当然」ではなくなり、「買えない人が多数派」になりつつあります。


3. 海外に学ぶ住宅政策

世界の大都市でも「住宅高騰問題」は共通の課題です。
各国は独自の解決策を導入しています。

  • 英国:官民連携で「アフォーダブル住宅」を供給(市場価格の8割程度)
  • フランス:低所得世帯の約半数が「住宅手当」を受給
  • オランダ:住宅総数の3割超が公営住宅、幅広い層が利用
  • シンガポール:国民の8割が公営住宅に居住、売買も可能

いずれも「住宅を社会インフラ」と位置づけ、持ち家を買えない層にも手厚い支援を用意しています。


4. 日本の課題

日本は新築優遇の持ち家政策が長く続きましたが、それが時代に合わなくなっています。

  • 新築偏重:住宅ローン控除など支援は新築中心
  • 公営住宅比率が低い:総住宅数の4%前後しかない
  • 家賃補助制度が弱い:全国一律の制度は存在しない

そのため「新築を買える人」だけが優遇を受け、「買えない人」にはほとんど支援が届かない仕組みになっています。


5. これからの住宅政策の方向性

日本が直面する課題と、取るべき方向性は明確です。

① 空き家活用

  • 2023年時点で空き家は 900万戸(30年で倍増)
  • 相続や人口減少で増え続ける住宅を「社会資源」として再活用
  • 改修やリフォームを政策支援することで流通を促進

② 中古住宅+リフォーム市場の育成

  • 欧米に比べて著しく小さいリフォーム投資比率
  • 税制優遇や補助金を「新築」から「中古・リフォーム」に広げる必要

③ アフォーダブル住宅

  • 東京都が200億円規模ファンドで供給に乗り出すが規模は限定的
  • 国レベルで官民連携を強化し、市場価格の8割程度の住宅供給を広げる

④ 賃貸・家賃補助の拡充

  • 公営住宅の新設は財政的に難しいが、既存ストックや限定的な家賃補助で「安心して賃貸に住める社会」を整備する

6. 「マイホーム」を再定義する

もはや「マイホーム=新築一戸建て」や「分譲マンション」ではありません。
これからの「夢のマイホーム」とは、自分に合った形で安心して暮らせる住まいを意味します。

  • 若年層:賃貸+家賃補助で柔軟に暮らす
  • 子育て世帯:中古住宅+リフォームでコストを抑えつつ快適に
  • 高齢世帯:住み替えやコンパクトな住まい、サービス付き住宅

「持ち家神話」にとらわれるのではなく、ライフスタイルに合った選択肢を社会全体で支えることが、次の時代の住宅政策に求められています。


7. おわりに

このシリーズでは、

  • 第1回:住宅価格の高騰と従来モデルの崩壊
  • 第2回:海外の住宅政策に学ぶ工夫
  • 第3回:日本の政策転換の方向性

を見てきました。

日本の住宅市場は大きな転換点を迎えています。
「持ち家=人生の成功」という価値観を超え、多様な住まい方を支える社会へ移行できるかどうか。
それが、これからの暮らしの安心を左右するでしょう。

「夢のマイホーム」は遠のいたのではありません。
むしろその形が広がり、誰もが自分らしい暮らしを選べる社会に近づくチャンスなのかもしれません。


参考文献

  • 日本経済新聞「遠のく夢のマイホーム マンションは年収の10倍、持ち家政策に転換期」(2025年9月13日)
  • 総務省「住宅・土地統計調査」
  • UBSグローバル不動産指数(2024年版)
  • 東京都「アフォーダブル住宅検討資料」
  • 不動産経済研究所「新築マンション市場動向」

という事で、今回は以上とさせていただきます。

次回以降も、よろしくお願いします。

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