1. 世界共通の課題「住宅価格の高騰」
日本だけでなく、世界の大都市で「家が買えない問題」は深刻化しています。
UBSグローバル不動産指数(2024年版)によると、ロンドンの住宅年収倍率は12倍、パリは13倍、東京は14倍。いずれも「平均的な市民が自力で家を買うのは難しい水準」です。
背景には、日本と同様に以下の要因があります。
- 海外マネーの流入
- 都市への人口集中
- 建築費や土地価格の上昇
世界各国はこの課題にどう向き合っているのでしょうか。
2. 英国:アフォーダブル住宅の仕組み
英国政府は「アフォーダブル住宅」の供給に力を入れています。
アフォーダブル住宅とは、市場価格の8割程度で販売・賃貸される住宅のことです。
仕組みのポイントは次の通りです。
- 官民連携で建設・供給
- デベロッパーへの補助金や税制優遇
- 賃料や販売価格に上限を設け、一般世帯でも手が届く価格帯を確保
例えば、ロンドン市内で平均的な民間賃貸住宅の家賃が月20万円とすると、アフォーダブル住宅なら16万円程度に抑えられます。
英国では、住宅政策を「社会インフラ」と位置づけ、若年層や子育て世帯を支援しています。
3. フランス:住宅手当による直接支援
フランスは「住宅は社会的権利」と考え、現金による家賃補助(住宅手当)を積極的に導入しています。
- 低所得世帯の約半数が住宅手当を受給
- 所得や家賃に応じて補助額を決定
- 家賃を直接下げる効果があり、住まいの安定につながる
例えば、家賃が8万円のアパートに住む低所得世帯に対し、2万円分を住宅手当で補助すれば、実質的な負担は6万円に軽減されます。
「市場の価格を操作する」のではなく、「世帯の負担を直接減らす」仕組みです。財政負担は大きいものの、住まいの安定性という観点では強力です。
4. オランダ:高い比率の公営住宅
オランダは公営住宅が非常に充実しています。
住宅総数の30%以上が公営住宅であり、国民の多くが低廉な家賃で暮らすことができます。
特徴的なのは、公営住宅が単なる「福祉住宅」ではなく、中間層も利用できる選択肢になっていることです。
所得に応じた賃料設定を行い、社会の分断を避けつつ住居の安定を保障しています。
5. シンガポール:国民の8割が公営住宅に居住
シンガポールはさらに徹底しています。
国民の約8割が「HDB(住宅開発庁)住宅」と呼ばれる公営住宅に住み、売買も可能です。
HDBは単なる公営住宅ではなく、
- 国が主導して大量供給
- 住宅ローンや購入補助も整備
- 賃貸だけでなく「持ち家」として購入も可能
結果として、国民の大多数が「手頃な価格で持ち家を持つ」ことを実現しました。
シンガポールの住宅政策は「社会の安定装置」として世界的にも注目されています。
6. 海外から見た日本の課題
こうした海外事例と比べると、日本の政策はやや偏っていることがわかります。
- 新築偏重:住宅ローン控除や税制優遇は基本的に新築が対象
- 公営住宅比率が低い:日本では住宅総数のわずか4%前後
- 家賃補助が弱い:家賃補助は一部自治体の限定的制度にとどまり、全国的な制度は存在しない
つまり「新築を買える人には手厚いが、買えない人にはほとんど支援がない」構造になっています。
この点が、中間層ですら家を買えなくなった現在の社会にそぐわないのです。
7. まとめと次回予告
今回の記事では、海外の住宅政策を見てきました。
- 英国は市場価格を抑えた「アフォーダブル住宅」を供給
- フランスは住宅手当で家賃負担を直接軽減
- オランダは公営住宅比率が3割超
- シンガポールは8割の国民が公営住宅に住む
どの国も「住宅は生活の基盤」として、多様な支援策を講じています。
対して日本は、新築購入者に有利な制度が中心。社会構造が変わった今こそ、多様な住まい方を支える政策転換が求められています。
次回(第3回)は、「日本の住宅政策の転換点とこれから」 を取り上げます。
空き家900万戸やリフォーム市場の未成熟といった課題を踏まえ、今後の住宅政策がどの方向に進むべきかを考えていきます。
参考文献
- 日本経済新聞「遠のく夢のマイホーム マンションは年収の10倍、持ち家政策に転換期」(2025年9月13日)
- UBSグローバル不動産指数(2024年版)
- 欧州各国の住宅政策関連資料
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
