改正育児・介護休業法の完全施行を振り返る
2025年10月に改正育児・介護休業法が完全施行されました。
このシリーズでは、
- 第1回:育児と仕事の両立
- 第2回:介護と仕事の両立
- 第3回:企業事例と今後の展望
を取り上げてきました。
最終回となる今回は、これらを総括し、私たちの社会と働き方に何が問われているのかを改めて考えます。
1. 改正法の本質 ― 「利用しやすさ」から「文化」へ
改正法のポイントは、単に制度を整備するだけでなく、企業が社員に「利用意思の確認」を行い、積極的に利用を促す姿勢を取らなければならなくなったことです。
つまり、これまでの「制度はあるけれど言い出しにくい」状況から、「会社が背中を押す」仕組みへと変化したのです。
制度の存在から「使いやすさ」へ、さらにその先には「制度を使うのが当たり前」という文化への転換が求められています。
2. 育児両立の現場 ― 時間の壁と罪悪感
第1回で紹介した明治安田生命の「かえるリレー」は、全社員が短時間勤務を体験する取り組みでした。
そこから見えてきたのは、
- 限られた時間で働く難しさ
- 同僚の理解を得る大切さ
でした。
育児両立において最大の課題は「時間」と「罪悪感」。
制度を利用しても「周囲に迷惑をかけている」と感じる社員が少なくありません。
この罪悪感を軽減し、制度利用をポジティブに捉えられるようにすることが、今後の課題です。
3. 介護両立の現場 ― 不確実性との闘い
第2回では介護を取り上げました。
介護の特徴は、
- いつ始まるかわからない
- どれだけ続くかわからない
- 終わりが見えない
という不確実性です。
2035年には就業者の6人に1人がケア就業者になるという推計もあり、介護両立は避けられない社会課題となります。
制度だけでは解決できず、企業や個人が「備える文化」を持つことが重要になります。
4. 企業事例に見る「納得感」の仕組み
第3回では、制度を支える企業事例を見てきました。
- エスエス製薬:フォロー社員に最大10万円を支給
- LINEヤフーコミュニケーションズ:ノーワーク・ノーペイの徹底と公平な評価
共通しているのは、「フォローする社員にどう報いるか」を重視している点です。
制度利用者だけでなく、支える側の社員も納得感を持てる設計が、摩擦を減らし、制度定着につながります。
5. 制度から文化へ ― 3つのキーワード
これまでの議論を整理すると、「制度から文化へ」の転換には次の3つが欠かせません。
① 公平性
利用者とフォロー社員の双方が「自分だけ損をしている」と感じない仕組み。
② 効率化
AIやRPAを活用し、業務負担を軽減。人が人をカバーするだけでは限界があります。
③ 相互理解
体験プログラムや対話を通じて、利用者とフォロー社員が互いの立場を理解する。
この3つが揃うことで、制度が「特別な例外」から「当たり前の働き方」へと進化していきます。
6. 私たち一人ひとりにできること
制度や企業の取り組みに頼るだけでなく、社員一人ひとりも次のような意識を持つことが大切です。
- 「いつか自分も制度を利用するかもしれない」という前提で職場を見る
- 同僚が制度を使うときは「お互い様」という気持ちを持つ
- 自分が利用するときには、効率的な働き方や情報共有で周囲の負担を減らす努力をする
小さな積み重ねが、職場全体の文化を変えていきます。
おわりに ― 支え合いが当たり前の社会へ
改正育児・介護休業法の完全施行は、働き方を変えるきっかけに過ぎません。
本当に重要なのは、
- 制度を利用できる環境
- 安心して使える雰囲気
- フォローする人も報われる仕組み
をどう整えるかです。
少子高齢化が進む日本社会において、育児や介護は誰にとっても「例外」ではなく「必然」。
だからこそ、制度を越えて「支え合いが当たり前」の文化を根付かせることが、私たちに求められています。
このシリーズが、皆さんの職場や家庭での議論のきっかけになれば幸いです。
📖 参考資料
「改正育児・介護休業法が完全施行」日本経済新聞(2025年9月28日付朝刊)
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。

