改正育児・介護休業法の完全施行と職場の変化(第1回)
2025年10月、改正育児・介護休業法が完全施行されます。
この法改正は少子高齢化が進む日本で、社員が子育てや介護をしながら働き続けられる環境を整えるための大きな一歩です。
しかし、制度が整うだけでは十分ではありません。実際の職場では、制度を利用する人と、その業務をフォローする人の間に溝ができるリスクがあります。本記事では「育児と仕事の両立」をテーマに、改正法の内容や企業の取り組みを紹介しながら、働く現場に何が起きるのかを考えていきます。
法改正の背景と施行スケジュール
今回の改正は段階的に施行されました。
- 2025年4月施行
・育児目的のテレワーク導入
・残業免除の強化 - 2025年10月施行(今回)
・企業が社員に対して「両立制度を利用する意思」を確認する義務
・利用希望者に配慮する義務
つまり、これからは会社が「利用したいですか?」と社員に聞き、利用を後押しすることが求められるようになります。これまで「自分から言い出しにくい」とためらっていた社員にとって、大きな後押しになるでしょう。
明治安田生命「かえるリレー」の挑戦
全社員が短時間勤務を体験
明治安田生命保険では2025年9月から「かえるリレー」と呼ばれる取り組みを始めました。
本社勤務の全社員が1週間、1日6時間勤務を体験するというものです。
対象は子どもの有無や役職、性別に関係なく全員。これによって「短時間勤務=一部の社員のための特別扱い」という意識を取り払おうとしています。
実際の声
実際に体験した社員はこう語ります。
「平日の夕方に子どもと遊ぶ時間ができた半面、限られた時間で業務を終える難しさも知った」
短時間勤務は魅力的に見えますが、効率を高めないと業務が回らない現実もあります。この両面を体感することが、職場全体の理解を促す効果につながります。
利用者が感じる「罪悪感」とフォロー側の負担
制度が整っても、実際に利用するとなると「同僚に迷惑をかけるのではないか」と不安になる人は少なくありません。
パーソル総合研究所の調査(2024年)によれば、制度利用者をフォローする同僚の42.6%が不満を持っているという結果が出ています。
- フォローする側:「自分にばかり負担が増えている」
- 利用する側:「周りに申し訳ない」
こうした感情のズレが、制度利用をためらわせる原因になっています。
企業が工夫する「支え合い」の仕組み
フォロー社員に報いる仕組み
制度を利用する人だけでなく、フォローする人にもしっかり報いる工夫を導入する企業も出てきました。
- エスエス製薬
育休取得者が所属するチームのメンバーに最大10万円を支給。
「同僚の負担を考慮し、後ろめたさをなくしたい」と説明しています。 - LINEヤフーコミュニケーションズ
週休3日制など先進的な制度を導入する一方で、「ノーワーク・ノーペイ(働かない分は給与も減る)」を徹底。
上司との面談で仕事量と報酬を調整し、フォローする社員の貢献を正当に反映しています。
これらの事例は、利用者とフォロー側の「納得感」を高める工夫といえるでしょう。
育児とキャリアの両立に必要な視点
今回の法改正で制度利用は広がりますが、次のような課題にも目を向ける必要があります。
- 制度を使う勇気:周囲の理解とフォロー体制が利用者の安心感につながる
- 効率的な働き方:生成AIやITツールを取り入れ、時間あたりの生産性を高める工夫
- チーム文化の醸成:利用者・フォローする側双方が「支え合う」意識を持てる仕組みづくり
「制度があるから安心」ではなく、「職場文化として当たり前に支え合える」環境が育児とキャリアの両立に不可欠です。
おわりに
改正育児・介護休業法の完全施行は、働き方の大きな転換点です。
制度があるだけでなく、それを安心して利用できる雰囲気づくりが企業に求められています。
子育てと仕事を両立するのは一部の人だけの問題ではありません。
誰もがいつか直面する可能性があるテーマだからこそ、支え合いの文化をどう築くかが、これからの職場に問われています。
📖 参考資料
「改正育児・介護休業法が完全施行」日本経済新聞(2025年9月28日付朝刊)
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。

