老後資金づくりの手段として人気があるのが、保険会社の「個人年金保険」です。契約時の予定利率が高いほど貯蓄性が高くなる仕組みで、特に1990年代前半に契約した個人年金保険は、予定利率が4.75~5.5%と現在の水準を大きく上回っていました。このような契約は“お宝保険”とも呼ばれ、見直しの際にその価値を再認識するケースが増えています。
本稿では、個人年金の年金額を増やす方法と、その際に注意すべき点を解説します。
受取開始時期を繰り下げて年金額を増やす
年金額を増やす第一の方法は、受取開始時期を繰り下げることです。
公的年金と同様、個人年金にも受け取りを後ろ倒しできる契約があります。たとえば60歳から受け取る予定を65歳に変更すると、繰り下げ期間中も保険会社が年金原資を運用し続けるため、年金額は増加します。契約時の高い予定利率がそのまま適用される場合、増加率はさらに大きくなります。
90年代前半に契約した10年確定年金では、5年繰り下げることで年金額が1.2~1.4倍に増えるケースもあります。年金100万円が120万~140万円になる計算で、非常に有利といえます。
ただし、繰り下げが可能かどうか、また当初の予定利率が維持されるかは、保険会社や約款によって異なります。案内が届かない場合でも、コールセンターに問い合わせると繰り下げ可能なケースがありますので、確認してみるとよいでしょう。
保険料を増額して年金額を増やす
もう一つの方法は、保険料を増額することです。
契約から数十年経っても、保険料の払込満了前であれば増額できる契約があります。たとえば、若い頃に予定利率5.5%の個人年金に加入した人が、50代になって老後資金をさらに増やしたいと考えた場合、保険料を増額することで高利率のまま年金原資を増やすことができます。預金金利がほとんどない今の環境では、非常に魅力的な選択肢です。
ただし、増額の申し出期限が「払込満了の数年前まで」と定められていることも多く、約款の確認が欠かせません。繰り下げと増額の両方ができる商品もあり、老後資金を最大化する“ハイブリッド戦略”として検討する価値があります。
年金額が増えることによる注意点
年金額の増加は嬉しいことですが、税金や社会保険料への影響にも注意が必要です。
個人年金の受取額のうち、払込保険料を上回る部分が雑所得として課税されます。たとえば、保険料総額が500万円、受取総額が1,000万円なら、差額の500万円が10年間にわたって年50万円ずつ課税対象になります。受取開始を繰り下げて年金額が増えれば、雑所得も増加します。
雑所得は総合課税となるため、公的年金や企業年金と重なると税率が上がる場合があります。また、所得が増えることで国民健康保険料や介護保険料が上がるほか、医療費・介護の自己負担割合が変わる可能性もあります。
特に、複数の年金を同時に受け取る場合は、受取時期をずらして所得を分散させる工夫が有効です。
60歳前後の受け取り判断
繰り下げが有利なケースが多いとはいえ、必ずしも全員に当てはまるわけではありません。
たとえば、60歳で定年を迎えた後、再雇用で社会保険に加入している場合は、個人年金を受け取っても社会保険料には影響しません。所得が減少しているため、税負担も限定的です。
また、「60代前半の生活資金を厚くしたい」「元気なうちに旅行を楽しみたい」といった希望がある人には、繰り下げよりも早期受取の方が適している場合もあります。
相談者のライフプラン全体を見ながら、税・社会保険料・生活資金のバランスを考慮してアドバイスすることが重要です。
結論
1990年代前半の高予定利率の個人年金保険は、いまや貴重な“お宝保険”です。
繰り下げや保険料増額を活用すれば、当時の高利率を生かした効率的な老後資金形成が可能になります。ただし、年金額が増えるほど税や社会保険料の負担も変わるため、受取時期や方法を慎重に選ぶことが大切です。
契約内容を改めて確認し、相談者のライフプランに合った最適な受け取り方を検討しましょう。
出典
日本FP協会「FPコラム:90年代前半に契約した個人年金保険はお宝」
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
