令和8年度税制改正大綱では、取得後5年以内の一定の貸付用不動産について、課税時期における通常の取引価額で評価する仕組みが示されました。
もっとも、実務上の簡便性に配慮し、取得価額を基礎として地価変動等を考慮した額の「100分の80」に相当する金額で評価できるとされています。
この「80%評価」は、一見すると妥当な折衷案のようにも見えます。しかし、本当に合理的といえるのでしょうか。
本稿では、80%評価の制度趣旨と、その合理性について整理します。
80%評価が設けられた背景
今回の見直しの背景には、市場価格と通達評価額の著しい乖離があります。
取得直後の貸付用不動産が、借入金控除や評価減の効果により大幅に圧縮される事例が続いたことから、制度の公平性が問題視されました。
そのため、取得から間もない物件については、原則として「通常の取引価額」で評価する方向が示されました。
しかし、完全な時価評価とすると、個別鑑定や評価争いが頻発するおそれがあります。そこで、取得価額を基礎とし、一定割合で評価する簡便方式として80%評価が提示されたと考えられます。
つまり、80%評価は「公平性」と「予測可能性」の折衷案という位置付けです。
80%という水準の意味
では、なぜ80%なのでしょうか。
評価通達では、貸家建付地評価や借家権割合など、一定の減価要素が織り込まれています。市場での売買価格は、収益性や立地、需給状況を反映した価格となりますが、理論上は空室リスクや管理コスト等も考慮されます。
80%という数値は、取得価額をそのまま維持するのではなく、一定の減価を認める趣旨と考えられます。
しかし、この割合がどの程度実態を反映しているのかについては、慎重な検討が必要です。
地価上昇局面では取得価額より高くなる可能性もありますし、下落局面では80%でも過大評価となる可能性があります。
固定的な割合を設定すること自体に、制度上の限界が内在しているといえます。
地価変動との関係
改正大綱では、地価変動等を考慮するとされています。
しかし、地価変動の反映方法が明確でなければ、80%評価は単なる形式的基準になりかねません。
特に問題となるのは、以下のようなケースです。
・取得後に地価が下落している場合
・取得価格自体が市場価格より高かった場合
・収益性が悪化している場合
このような状況で一律80%評価を適用すると、実勢価格との乖離が逆方向に生じる可能性があります。
本来、「通常の取引価額」を基準とする以上、柔軟な調整余地が制度上確保される必要があります。
公平性の観点からの検討
80%評価の導入は、極端な評価圧縮を防ぐという意味では公平性の回復に資する側面があります。
しかし、次のような論点もあります。
・5年超保有物件との均衡
・自用不動産とのバランス
・不動産以外の金融資産との比較
相続税は総合課税であり、特定資産のみを強く規制すると、資産選択にゆがみが生じる可能性があります。
評価方法の変更が市場行動を変え、結果として新たな節税商品やスキームを生むことも考えられます。
制度は常に、納税者行動との相互作用の中で評価する必要があります。
予測可能性とのバランス
評価通達6項に頼らない明文化は、納税者の予測可能性を高めるという点で評価できます。
しかし、80%評価が「安全圏」として固定化されると、本来の趣旨である通常の取引価額主義が形骸化するおそれもあります。
本来は、
・明確な時価基準
・合理的な補正方法
・例外的調整の透明性
が整備されることが望まれます。
割合のみを示す制度は、簡便ではありますが、理論的な整合性の面では弱さが残ります。
実務への示唆
実務上は、以下の点を意識する必要があります。
・取得価額の妥当性を説明できる資料の整備
・地価変動の客観的資料の保存
・収益性の変動要因の整理
80%評価が認められるとしても、それが当然に適用されるとは限りません。
取得時の価格形成過程や、金融機関評価との整合性など、実体を伴う説明力が今後より重要になります。
単に「割合があるから安心」という考え方は通用しにくくなると考えられます。
結論
80%評価は、評価通達6項の個別適用に依存しない制度整備として一定の合理性を持ちます。
しかし、その合理性は絶対的なものではありません。
固定割合という形式は簡便ですが、市場価格という本来の基準からみれば補助的な手段にすぎません。
評価の適正化は、公平性の回復を目的とするものです。しかし、公平性とは単なる税額の増減ではなく、制度の一貫性と予測可能性を含む概念です。
今後の政省令・通達の整備次第で、80%評価の実質的意味は大きく変わります。
制度の方向性を冷静に見極めることが求められます。
参考
・2026年02月09日 税のしるべ 連載「続・傍流の正論~税相を斬る」第78回/貸付用不動産の評価
・自由民主党・日本維新の会 令和8年度税制改正大綱
・財産評価基本通達
・最高裁令和4年4月19日判決 解説資料
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
