厚生労働省は後期高齢者医療制度における年間保険料の上限を、2026年度から現在の80万円から85万円へ引き上げる方針を示しました。対象となるのは75歳以上の加入者のうち約1.2%にあたる高所得層とされており、年金と給与収入の合計が1150万円以上の人が想定されています。医療費の増加が続く中で、どのような考え方に基づいて負担の見直しが進められているのかを整理します。
高齢者医療費の増加と財源構造
高齢化が進むにつれて、後期高齢者医療制度の医療費は着実に増えています。医療の高度化や受療率の上昇も背景にあり、制度全体の給付費が年々伸びている状況です。財源は公費、現役世代の支援金、そして後期高齢者本人が負担する保険料で構成されていますが、公費・現役世代への依存度が高い仕組みとなっています。
公費負担は5割、現役世代の支援金は4割、保険料負担は1割が目安ですが、現役世代人口の縮小が続く中で支援金の伸びを抑えることが重要な政策課題となっています。そのため、所得の高い高齢者に相応の負担を求める方向性が強まっています。
今回の引き上げの狙い
保険料の上限引き上げは制度全体の財政改善を狙うもので、負担能力に応じて適切に役割を分担する発想に基づいています。現在の上限80万円に達している人は加入者の1%程度にとどまっていますが、今回の改定により上限が5万円拡大されることで、より多くの高所得層が追加で負担する仕組みになります。
高所得の後期高齢者については、通常の窓口負担が1割であることに加え、医療費全体の公費負担が大きいことから「負担の見直しは避けられない」という議論が以前からありました。今回の改定はその一環として位置づけられます。
年1150万円以上というラインの意味
上限引き上げの対象となる「年金+給与収入が1150万円以上」の層は全加入者のごく一部ですが、制度に与える財政効果は一定程度見込まれています。この層は所得に対して保険料負担の上限制約が影響しやすく、今回の引き上げにより医療費の伸びに対応した支え手が厚くなる構造です。
また、近年の税制改正でも高所得層に対する控除縮小が進んでおり、社会保障制度の持続性確保の観点から「応能負担」を強化する流れが明確に見られます。
今後の議論として想定される論点
今回の見直しは限定的なものですが、今後の医療費増加のペースを考えると、さらに広い層に対する負担調整が議論される可能性があります。
主な論点としては次のような点が想定されます。
- 保険料の上限だけでなく、所得に応じた細かな料率調整の検討
- 窓口負担割合(1割・2割)の見直し
- 現役世代の支援金の抑制策
- 介護保険との負担バランスの再設計
日本の社会保障制度は、高齢者人口の増加スピードが世界でも群を抜いており、財政の持続性を確保するための調整が今後も続くと考えられます。
結論
後期高齢者医療制度の保険料上限引き上げは、高齢者医療費の増加と財政構造の変化を背景にした応能負担の強化という流れの中で実施されるものです。対象者は限定的とはいえ、制度の持続性を高めるための象徴的な施策であり、今後の社会保障改革の方向性を示す動きともいえます。負担のあり方を巡る議論はさらに続く見込みで、制度の安定的な運営と世代間のバランスをどのように保つかが引き続き問われます。
参考
厚生労働省審議会資料、医療制度改革関連報道(2025年12月)
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。

