70歳定年は日本の現実解となるのか(人口減少時代の社会保障と働き方を考える)

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日本の人口減少が想定以上のスピードで進んでいます。出生率は1.15まで落ち込み、これまで国が示してきた将来推計さえ下回る状況です。現役世代の縮小は、年金・医療・介護を中心とした社会保障制度の持続可能性に直接影響します。こうした背景のなか、諸外国では「70歳定年」への移行がすでに始まりつつあります。日本でも同様の方向性が議論され始めていますが、企業制度・社会保障・働き方・健康寿命など多面での改革が必要になります。

本稿では、海外の動向、日本の人口構造の変化、70歳定年がもたらす影響、そして実現のための課題とロードマップの方向性を整理します。

1 世界で広がる「70歳定年」という潮流

欧州ではすでに定年を70歳まで引き上げる動きが本格化しています。デンマークは2040年までに段階的に定年を70歳に引き上げる法案を可決し、年金支給開始年齢も連動して67歳から68歳、69歳へと伸ばしていきます。平均余命の延びに合わせて年金制度を調整する仕組みで、将来的には74歳までの引き上げの可能性も示されています。

同様の仕組みはオランダやイタリアにも広がっており、OECD各国において定年・年金支給開始年齢を柔軟に調整する動きが見られます。これは高齢化に直面する国にとって、制度維持のための「現実的な選択肢」となりつつあるためです。

しかし、定年延長は国民にとって必ずしも歓迎されるものではありません。フランスでは受給開始年齢の引き上げが政治的対立を生み、マクロン政権の支持率低下を招きました。年金改革は政治的に極めて扱いが難しいテーマであることが浮き彫りになっています。


2 日本の人口減少は想定以上のペース

日本の出生率は1.15まで低下し、OECD平均の1.46をも下回っています。これまで政府が描いてきた「2050~2070年にかけて緩やかに落ち着く」という人口シナリオも見直しが必要な段階に入りました。

さらに、近年の学術的議論では出生率低下は先進国だけでなく世界的な現象であり、長期的には人口が大幅に縮小する可能性が指摘されています。これは極端な推計だとしても、出生率を2.07まで回復させることが容易ではない以上、日本は「人口維持を前提とした社会保障制度」からの転換を迫られています。

現役世代が高齢世代を支える仕組みは、人口が右肩上がりで増える社会を前提に設計されたものです。人口構造の変化に伴って制度設計自体を見直さなければ、制度維持は困難になります。


3 社会保障維持に向けた日本の課題

日本では再雇用を含めた雇用の上限が65歳で、企業の70歳雇用は努力義務にとどまっています。公的年金も65歳からの支給開始が原則で、制度としては「65歳を節目」とした設計が維持されています。

70歳までの就労が一般化すれば、税や社会保険料を負担する期間が延び、年金の受給開始を遅らせる余地も広がります。結果として、年金財政の安定化が期待できます。しかし、そのためには社会全体の働き方や健康づくり、企業の人材マネジメントを大きく見直す必要があります。

ここで大切になるのは以下の点です。

  • 健康寿命の延伸(現在は男性72.57歳、女性75.45歳)
  • 病気等で働けない人を支える医療・介護・障害制度との連携
  • 副業や兼業を含めた柔軟な就労モデルの普及
  • 高齢社員の育成・配置転換・職務再設計
  • 私的年金を含めた老後資産形成の強化

特に「40年の年金拠出期間を45年に延ばす案」が見送られた背景には、老後設計の全体像が明確でないという国民の不安がありました。定年延長と年金改革は、セットで議論しなければ政治的合意は得られません。


4 日本版「+5歳社会」のロードマップの方向性

日本が70歳まで働く社会へ移行するには、段階的で予見可能なロードマップが不可欠です。

(1)定年延長の段階的実施

5年ごとに1歳ずつ引き上げるなど、長期計画を示すことで企業と個人が適応しやすくなります。

(2)年金支給開始年齢の連動

デンマーク型の「平均余命に連動する仕組み」は日本でも有効です。年金制度の自動調整機能は、財政の安定化に寄与します。

(3)雇用流動化とのセット改革

高齢期の働き方は1社完結ではなく、

  • 副業
  • 複業
  • 地方移住を含むセカンドキャリア
    など多様な働き方が前提となります。

(4)健康寿命を延ばす投資

医療・介護の効率化だけでなく、予防医療・デジタルヘルス投資を拡充し、70歳まで働ける体を維持できる環境が必要です。

(5)資産形成の強化

NISA・iDeCo・企業型DCなどの私的年金制度は「長く働く時代の保障」として重要性が高まります。


結論

70歳定年は単なる労働政策ではなく、人口減少社会における「社会保障制度の再設計」の中核に位置づけられます。税・社会保険料を負担する期間を延ばし、年金受給の開始を遅らせ、医療・介護の持続性を高めるための包括的な改革です。

最大の課題は、政治が将来像を明確に示し、後送りを避ける姿勢を貫けるかどうかです。高齢化はゆっくり進むように見えて、気づけば制度が維持できない水準に達していることもあり得ます。

人口減少時代における働き方と社会保障の新しいモデルを描くこと。それが、これからの日本に求められる最重要の政策課題です。


参考

・日本経済新聞「70歳定年 日本は倣えるか」(2025年12月8日)
・OECD Pensions at a Glance
・厚生労働省「健康寿命の推移」
・国立社会保障・人口問題研究所「将来推計人口」


という事で、今回は以上とさせていただきます。

次回以降も、よろしくお願いします。

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