インフレが続く環境では、老後資金を現金や預貯金だけで持つことにもリスクがあることを、前回確認しました。
一方で、50代・60代になると「いまから投資を始めるのは不安だ」「もうリスクは取りたくない」と感じる人も多いのではないでしょうか。
老後が近づく時期の資産運用では、若い世代と同じ考え方は通用しません。重要なのは、リスクを避けることではなく、リスクとどう向き合うかを整理することです。
なぜ50代・60代は投資に慎重になるのか
この年代になると、資産を増やすよりも、減らさないことへの意識が強くなります。
老後までの時間が限られていると感じることで、価格変動のある資産を避けたくなるのは自然な心理です。
また、過去の相場下落を経験している人ほど、投資に対して慎重になる傾向があります。この慎重さ自体は悪いものではありませんが、慎重になりすぎることで別のリスクを抱える可能性もあります。
老後までの時間は人によって違う
50代・60代といっても、老後までの時間は一律ではありません。
定年後も働く人、年金の受給開始時期を遅らせる人など、老後資金を使い始めるタイミングには幅があります。
老後資金の一部は、10年、20年と使わずに残る可能性があります。この時間軸を無視して、すべてを短期目線で考えてしまうと、資産全体のバランスを欠くことになります。
リスクは「取る・取らない」ではなく「管理する」
資産運用におけるリスクは、ゼロにすることはできません。
預貯金にもインフレによる価値の目減りというリスクがあります。
重要なのは、リスクを取るか取らないかではなく、どの範囲で、どの程度のリスクを許容するかを自分で決めることです。
この判断軸があれば、相場の変動に振り回されにくくなります。
老後世代における運用の考え方
50代・60代の資産運用では、一攫千金を狙う必要はありません。
運用の目的は、老後資金の実質的な価値を維持し、生活を安定させることにあります。
そのためには、資産の一部を長期で分散投資し、価格変動を時間でならすという考え方が有効です。
すべてを運用に回すのではなく、流動性資金や安全性資金を確保したうえで、無理のない範囲で行うことが前提になります。
自分のリスク許容度を確認する
資産運用に正解はありません。
大切なのは、相場が下落したときに冷静でいられる範囲で行うことです。
評価額が一時的に下がっても生活に影響が出ないか、精神的な負担にならないかを考えることが、自分のリスク許容度を知る手がかりになります。
老後資金では、眠れなくなるような運用は長続きしません。
結論
50代・60代からの資産運用は、若い世代とは異なる視点が求められます。
リスクを避けるのではなく、理解し、管理することが老後資金づくりの鍵になります。
次回は、こうした考え方を踏まえたうえで、少額投資非課税制度を老後資金にどう活用するかについて整理します。制度の特徴と注意点を、実務目線で確認していきます。
参考
日本経済新聞
老後資金、棚卸しで点検――インフレ考慮し運用戦略を(2025年12月20日 朝刊)
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
