インフレの定着と株高というマクロ環境の変化は、2025年の日本経済を大きく動かしました。
一方で、個人の資産形成にとって重要なのは、相場環境そのもの以上に「制度がどう設計されているか」です。
2026年は、税制改正と新NISAの2年目が重なる年となります。
本稿では、これまで整理してきた日本経済の構造変化を前提に、2026年税制改正と新NISA2年目をどのように接続して考えるべきかを整理します。
2026年税制改正が置かれた前提
2026年税制改正の最大の特徴は、デフレ期の発想から完全に離れつつある点です。
所得税、社会保険、財政規律を巡る議論の背景には、インフレ定着と名目成長の回復があります。
かつては、減税や給付によって可処分所得を下支えすることが政策の中心でした。しかし、物価上昇が続く局面では、単純な負担軽減はインフレ圧力を強める側面も持ちます。そのため、2026年税制改正では「配分の見直し」「メリハリ」がより重視される流れとなっています。
この環境下では、税制は「生活を守る仕組み」であると同時に、「行動を誘導する仕組み」としての性格を強めています。
新NISAは「制度としての完成形」に近づいた
2024年に始まった新NISAは、2025年を経て、2026年に2年目を迎えます。
非課税期間の恒久化、年間投資枠の拡大、成長投資枠とつみたて投資枠の併用といった制度設計は、短期売買を促すものではなく、長期の資産形成を前提としています。
重要なのは、新NISAが「税制改正のたびに条件が変わる制度」ではなく、比較的安定した前提として使えるようになった点です。
これは、家計が中長期のライフプランを描くうえで、大きな意味を持ちます。
新NISA2年目で問われる「使い方」
新NISAは制度としては完成度が高い一方で、2年目以降は「どう使うか」が明確に分かれ始めます。
- 年初一括で投資枠を使い切る人
- 毎月積立を継続する人
- 相場環境を見ながら部分的に使う人
インフレ定着局面では、現金で持ち続けること自体がリスクとなる可能性があります。そのため、新NISAを「投資を始める制度」ではなく、「資産配分を考え直す制度」として捉える視点が重要になります。
税制改正とNISAは役割が違う
ここで整理しておきたいのは、税制改正と新NISAの役割の違いです。
税制改正は、主に所得や負担の再配分を目的とします。一方、新NISAは、個人の行動変容、すなわち長期投資への誘導を目的としています。
2026年税制改正では、今後も社会保障負担や財政規律を意識した調整が続くと考えられます。その中で、新NISAは、将来の資産形成を「自己責任だけに委ねないための装置」として位置付けられています。
税制改正で全てを救うことはできない。その前提のもとで、NISAが用意されていると理解することが重要です。
インフレ時代の「非課税」の意味
インフレが定着した世界では、「非課税」の意味が変わります。
デフレ期には、運用益そのものが得にくかったため、非課税の恩恵も限定的でした。しかし、名目成長が前提となる局面では、運用益が発生する可能性が高まり、非課税制度の効果は大きくなります。
一方で、相場の変動も大きくなりやすいため、短期的な評価損益に一喜一憂しない設計が求められます。新NISAは、インフレ時代の「時間を味方につける制度」として活用することが肝要です。
家計に求められる整理軸
2026年以降の家計にとって重要なのは、次の整理軸です。
- 収入は名目で増える可能性がある
- 支出も同時に増える
- 税と社会保険の負担は軽くならない
この前提のもとでは、
「余ったお金で投資する」のではなく、
「将来使うお金の一部をどう守るか」
という発想が求められます。
新NISAは、そのための器に過ぎません。制度をどう使うかは、家計全体の設計と切り離せません。
結論
2026年税制改正と新NISA2年目は、別々のテーマではありません。
インフレ定着という共通の前提のもとで、税制は負担と配分を調整し、新NISAは個人の資産形成行動を支える役割を担っています。
重要なのは、制度の細かな変更点を追いかけること以上に、
「なぜこの制度が用意されているのか」
を理解することです。
インフレ時代の資産形成は、短期的な正解が見えにくい分野です。だからこそ、制度を味方につけ、長期の視点で判断する姿勢が求められています。
参考
・日本経済新聞「インフレ定着、際立つ株高」
・日本経済新聞「〈スクランブル〉個人マネー、世代交代の波」
・日本経済新聞「減収規模7100億円に 年収の壁上げや設備投資減税」
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。

